2010-11-15

数理科学II(第16回)

今日は、2学期最後の授業ということで、部分終結式の基本定理を受けて、Collins による「Reduced(縮小)PRS 算法」を説明しました。

2学期の授業で、結局、部分終結式の理論が終わりませんでしたが、3学期の始めに、残った「部分終結式PRS算法」を説明し、その後、次の話題に移りたいと思います。

2010-11-12

数学特別演習(第8回)

今日の授業では、「ケーニヒスベルクの橋渡り問題」から入り、グラフの辺と頂点の個数に関する性質に続き、グラフの「一筆書き」に関連する「オイラーの定理」をやりました。

今日最初の定理の証明の部分では、テキストに数学的帰納法に関する説明がありました。数学的帰納法は、このクラスの学生さん達のほとんどは高校の数学で習ってきているようでしたので、今日の授業では特に問題ありませんでしたが、テキストではかなり丁寧に説明しており、帰納法に初めて触れる読者に対しても十分配慮している様子がうかがえました。

余談ですが、以前、私がある論文を投稿した時、証明の冒頭に "By mathematical induction. (数学的帰納法で証明する)" と書いていたら、査読者の一人に "What is an induction that is not mathematical? (数学的でない帰納法はどんなんかいな?)" と、辛らつとも思えるコメントを書かれたことがあり、以来、帰納法による証明を書く際には "By the induction. (帰納法で証明する: 「数学的」という言葉を省いた)" と書くようにしています(という話もしました)。

グラフの辺と頂点の個数に関する定理も、オイラーの定理も、証明は、式を計算したりするたぐいのものではなく、論理的に考えるだけで理解可能なもので、学生さんの感想を読むと、その点に感心している人もいました。それにしても、橋渡り問題を数学的にとらえて「グラフ」という抽象的な概念を創り出し、問題を解いたオイラーはやはりすごい人だなということを、再度実感しました。

2学期の授業は今日でおしまいです。残念ながら、全員に発表が回る程の回数がありませんでしたが、発表が回ってこなかった人達には、今学期の復習をレポートで出してもらう予定です。学生さんの感想に「授業の回数を重ねるにしたがって、発表の内容や方法のレベルが上がってきた」という指摘がかなりありました。こういう点で、お互い刺激しあえるのはこの授業の収穫だったのではないかと思います。3学期も、この調子での活発な授業になることを期待しています。

2010-11-09

「計算機代数システム Risa/Asir への招待 (II)」

今日も、昨日に引き続き、小原さんの講演が行われました。

当初、グレブナー基底の話を予定しましたが、昨夜の帰り道で、急きょ話す内容を変えたとのことで、分散計算システム OpenXM のお話をしていただきました。

OpenXM は(主に数学的計算を行う)異なるソフトウェア間で、数学の情報(数式等のデータ)をやりとりしながら非同期的に計算を行うための規約(プロトコル)およびその実装です。神戸大を本拠とする Risa/Asir の開発チームを中心として、プロトコルと実装が開発されています。これまでに、数式処理システム Risa/Asir を中心に, 計算代数システム Kan/sm1, グラフ描画ソフトウェア gnuplot, 多変数連立代数方程式の数値計算ソルバ PHCpack 等を接続する実装が公開されています。

今回のお話では、まず OpenXM を用いた分散計算(有限体上の1変数多項式の因数分解)のデモンストレーションから始まり、OpenXM の計算モデル、クライアントやサーバの構成、通信手順の概要、実装例として、数式処理システム Mathematica との接続などについて説明がありました。

私は、学生時代、数式処理システム GAL を用いた研究に関わり、オリジナルのシステムを作ることの大変さや重要性を間近で見る機会に恵まれましたが、今回のお話を聞いて、OpenXM も、独自に計算モデルやプロトコルを考え、実装してきたことのすごさを感じました。

プロトコルや計算モデルを考えるというのは、実際にどのようなシステムが求められているか、ユーザ(本当の利用者や、利用者が使うシステムを作る開発者)の要件に見合うことが求められ、その上実用性も求められますし、1度作り始めると途中の軌道修正はなかなか困難な場合もありますから、最初の設計が大変重要です。

そういう意味では、設計者には、自分がこれから作ろうとするシステムの行き先を(ある程度は)見通す力が求められます。この点で、OpenXM と、このプロジェクトを続けている方々はやはりすごいなと感じました。

もう一つ、印象に残ったのは、プロジェクトの進み方の自由度の高さです。コミッターと呼ばれる、ソースコードを改変する権限をもつ人達は、基本的に自由にソースコードを加えたり、編集したりできるそうで、新しい機能を加えるために、既存のコードを書き換えたり、新しいコードを加えたりということも、比較的自由に行われているとのことです。

こういう話を聞くと「コードの品質保証は大丈夫?誰が面倒見てるの?」という疑問がすぐにわきます。小原さんに尋ねたところ、答えはこういう内容でした(以下の記述の文責は私にあります)。

「バグを出さない」という意味での品質保証は、基本的にない。ただし「数学的に正しい計算を行う」コードを書くというのが、全体の基本。

バグの制御は特に体系的に行っていない状況で、大きなトラブルが起きていないということは、コミッターの仕事の質の高さを推測できると思います。一方「数学的に正しい計算を行う」部分については、数式処理システムによっては、特定の問題に対して誤った計算結果を返したりする場合があり、これもバグの一種ではありますが、数学的な正しさは、システムに対する信頼性に与える影響も大きいと思います。そういう意味においてこの辺の取り組み方も、なるほどと印象に残りました。

そのような感じで、今日の小原さんのお話にも大いに刺激を受けた後、夕方の研究打ち合わせを経て、夜は、田島先生、小原さんとで、楽しい会話とビールとドイツ料理を堪能し、有意義なひとときを過ごしたのでありました。

2010-11-08

数理科学II(第15回)「計算機代数システム Risa/Asir への招待 (I)」

今日の授業は、私が所属する計算機数学グループの田島慎一先生との共同研究で一緒に仕事をしている、金沢大学の小原功任先生に、数式処理システム Risa/Asir の話をしてもらいました。

小原さんは、計算代数の研究のかたわら、数式処理システム Risa/Asir の開発にも参加され、計算代数の各種アルゴリズムの実装や, 分散計算のためのシステム開発等に携わっていらっしゃいます。今日は、主に初心者向けに、数式処理や、数式処理システムの概要、Risa/Asirの紹介などをしていただきました。

主にこの授業に参加する学生さん達の都合で、講演は、今日、授業時間の1コマ話してもらい、明日、もう1コマ使って話の続きをしてもらう予定です。

今日お話しいただいた内容で、今後、授業の学生さんに補足した方がよさそうだと思った項目は、CVS(バージョン管理システム)、倍精度浮動小数、量限子消去 (Quantifier Elimination)、あたりでした。あと、今日の話題で興味深かったのは、Asir の構造体において、要素間の演算を定義できるという部分でした。ドキュメントにはあるそうですが、なかなか話題に上ることが少ないそうです。あと、構造体の演算定義では、型キャストの機能がないので少々不便、という話もされていました。以上、内輪話も含めてこの辺で。

2010-11-05

大学機関別認証評価の面談

今回、普段とはちょっと変わったミッションに臨んできました。「大学機関別認証評価」と呼ばれるものです。

日本の国・公・私立大学(短大を含む)、高等専門学校(高専)は、学校教育法で、7年以内(現実には7年)ごとに、大学(高専)としての教育、研究の機能(ミッション)を果たしているかどうか、第三者の評価を受けることが義務づけられています。ここでいう「第三者」は、文部科学大臣が認証する評価機関(認証評価機関)です。

現在、大学に対する第三者評価はいろいろありますが、機関別認証評価は、それらの評価の中でも重要なものの一つのようです。国立大学に対する機関別認証評価は、国立大学が法人化された2006年度から始まり、うちの大学は、7年目、つまり、評価周期の最終年に評価を受けることになりました。

機関別認証評価では、評価の前年度から準備が始まります。国立大学の場合、評価機関は、たいてい「独立行政法人 大学評価・学位授与機構」に依頼するようですが、評価機関に評価の依頼を行い、いろいろ準備します。評価自体は、大学による「自己評価」をもとに、評価機関で選ばれた評価委員が中心になり、その自己評価の妥当性を調査、検討して、最終的な評価や提言を行います。ですので、大学では、自己評価の作業と、その結果を「自己評価書」にまとめる作業が、前年度から、本年度始めにかけて行われます。私も、昨年来、会議のたびに「認証評価の書類が何たら・・・」という話を時々聞きましたが、このような話だったのでした。

さて、前置きが長くなりましたが、私がかかわったのは、評価委員の訪問調査時に、一般の教職員と行う「面談」です。今回、うちの大学では、昨日から今日にかけて、2日間の日程で、評価委員の先生方が大学を訪れる「訪問調査」が実施されました。訪問調査では、大学幹部との面談、一般教職員の代表との面談、施設や授業の見学、学生代表との面談などが行われました。一般教職員との面談では、全学から、教職員合わせて12人が選ばれ、その中に私も選ばれて、面談に参加しました。

面談に先立ち、大学が作成した「自己評価書」をざっと眺めました。全部でA4版約260ページにも及ぶ本冊と、同じくらいの厚さの資料の2本立てで、認証評価にあたっての評価項目も非常に細かく、教育、研究をあまねくカバーするのですが、それらの項目の一つ一つに対し、大学としてとのような取り組みを行っており、いかに評価の基準を満たしているかということを、大学の規約や、各学科、専攻の活動例など、細かな証拠も挙げながら、詳細に説明しています。全学のたくさんの人達が、自己評価書の作成にかかわったと思いますが、そのマンパワーは相当な量でしょう。何人時(月?)くらいかしらと思いました。すべての大学がこのような資料を作るわけですから、全国でも相当な仕事量になるでしょう。

肝心の面談は、分刻みのスケジュールの中で、1時間ということでした。面談の進行は、大体、参加した教職員の自己紹介を交えながら、評価委員の先生方の質問が入るのですが、うちの大学の組織が複雑なこともあり、所属組織の説明にかなりの時間が割かれていました。その他、主な話題は、教員の方では、教養教育や専門教育の分担や、学生相談の体制、事務職員や技術職員の方では、事務の分掌や学生、教員の支援体制など、主に教育・事務組織がどのように動いているかに関する議論が多かったと思います。

そんな感じで、全員の自己紹介が一巡する頃にはほぼ時間切れとなり、1時間は短いなーと感じましたし、短時間の訪問調査で状況を把握する上で、評価委員の先生方のご苦労も並々ではないなーと感じました。あと、学内の他分野の部局の組織や体制を知る機会は、私のような立場では普段なかなかないのですが、分野によって、組織の運営もいろいろなんだなーということも、よくわかりました。

今後は、評価機関から評価案が示され、それに対する大学の回答を経て、今年度末には評価結果が確定し、自己評価書も、大学から公表されると思いますので、評価の推移を見守りたいと思います。

数学特別演習(第7回)

今日の授業では、greedy algorithm(欲張りアルゴリズム)とマトロイドの関係から始まりました。

マトロイドは、主に、数学の中でも組み合わせ論と呼ばれる分野において、線形代数の「1次独立」の概念をより抽象化した、「独立」の概念や構造のことをいいます。もちろん、この授業ではマトロイドの詳細には立ち入りませんが、今勉強しているグラフの木構造が、マトロイドの一例であること、ある与えられた構造において、greedy algorithm が常に最適な解を見つけるならば、その構造はマトロイドどなること、などの事実に触れました。

マトロイドは、1930年代に、幾何学者のホイットニー (H. Whitney) によって発見され、世界に広まった概念ですが、実は、同時期に、日本でも独立に発見されたことがわかってきました。東京文理科大学(筑波大学の前身の一つ)の中澤武雄氏が、東京文理科大学の紀要 (Science Reports of the Tokyo Bunrika Daigaku, Section A) に掲載した論文がそれです。この辺の概要は、筑波大学数学系のwebサイトにおいて、斎藤明先生による解説が掲載されています。

中澤武雄の数学的業績 (斎藤 明)
http://www.math.tsukuba.ac.jp/kouseki/knak/nakasawa.html
また、西村泰一先生と黒田享先生により、中澤氏の略歴と業績、マトロイドに関する論文(ドイツ語)およびその英訳が書籍にまとめられ、出版されています。
A Lost Mathematician, Takeo Nakasawa: The Forgotten Father of Matroid Theory
Nishimura, Hirokazu; Kuroda, Susumu (Eds.)
Birkhäuser, Basel, 2009, XII, 234 p. 14 illus., Hardcover
ISBN: 978-3-7643-8572-9
なお、この本のプレプリント(全文)は、つくばリポジトリ(筑波大学の機関リポジトリ)にて入手可能です。 http://hdl.handle.net/2241/104009

授業の後半では「ケーニヒスベルクの橋渡り問題」が取り上げられました。今後は、グラフの一筆書きの問題に話題を変えて話が進みそうです。

2010-11-01

数理科学II(第14回)

今日から11月です。今日の授業では「部分終結式の基本定理」の証明がようやく終わりました。

授業が始まった時、学生さんは1人しか来ていなかったので、今日がメインの日なんだけどどうなるだろう、と思いました。結局、間もなくもう1人来ましたが、出席率は半分でした...

来週は、私が参加させていただいている共同研究のパートナーの先生が研究打ち合わせに来るので、それに合わせて、セミナー兼集中講義のような形で、話をしてもらう予定です。