2010-12-24

数学特別演習(第11回)

今日は「中国の郵便配達員問題」アルゴリズムの最後、入力が有向グラフの場合の話から始める、ということだったのですが、最初の担当の学生さんが、次の章からしか予習をしていません、ということで、急きょ、その場で発表をしてもらいました。

学生さんも、突然のことで面食らったと思いますが、私や、前回発表した人の説明を手がかりに、何とか無事この部分を終えることができました。

次の章では「ナイト跳び」の問題に関する議論が始まりました。これは、チェスの「ナイト」の駒を、チェス盤の上で動かし、すべてのマス目を一度だけ通過させることができるか?という問題です。ここでは「バックトラッキング法」や「ウォーンスドルフの方法」(1823年、ヒューリステックな方法)が紹介され、ついでオイラーによる研究成果(1757年)が紹介されました。ここでもオイラーが登場している。すごいです。

以上、最初の部分で詰まったことと、「ナイト跳び」の部分はよく準備してきたようなことから、最初の人に時間を使ってもらい、今日は1人で授業を終えました。

後で聞いたのですが、今日話した学生さんは、前回の2人目の人から、次の範囲が「ナイト跳び」から、と聞いていたのだそうで(私は前回の授業終了の際に、正しい範囲を伝えていたはずですが)、今日は本人もさぞかし驚いたことでしょう。でも、最後まできちんと説明していたのはよく頑張ったと思います。

そんなわけで、今日は予想外の展開になりましたが、今年の授業も今日で終わりです。よいクリスマス、お正月を過ごし、また年明けに元気に再会できることを願っています。

数学特別演習:第10回の感想から

今日も、次の授業の前に、第10回の学生さん達の感想から、興味深い(おもしろい?)と思ったものを紹介します。(文面の一部を編集しています。太字も私によるものです。)

今日の範囲はとても内容が濃く、難しかったと思う。しかし、発表者が丁寧に説明してくれたおかげで、よく理解できた。
「今回の内容が濃かった」という感想は、複数寄せられました。私も予習して感じた通りだったと思います。一方で、発表者の説明がわかりやすかった、という感想も複数ありました。たいてい、2つの感想がセットで書かれていました。今回の発表者のお二人、お疲れさまでした。

今まで、この授業に限らず、数学を学んでいて、一体これは何に使うんだろうということが数多くあった。大学に入ってから、様々な場面で論理と同様に応用先も学び始めた頃から、ようやく「スッキリ」し始めた部分がある。
数学科では、数学自体が研究の対象になる場合が多いため、なかなか応用に目が届きにくいかもしれませんが、世の中には興味深い(解きたい)問題も数多く存在し、それらに対する数学の興味深い応用もいろいろあると思うので、そうした応用問題に目を向けるのも有益だと思います。また、そうした応用問題の内容を理解する上でも「数学力」を身につけておくと、役に立つのではないかと思います。

今回の範囲は、ページ数の割に内容が難しいところで、自分が読んだ時に理解できなかった部分を、他の人の解釈から理解することができた。
こんな風に色々な観点から物事を見るのは大切なことかもしれないなぁ。 みつを
内容は最初の感想とほぼ同じですが、最後の一言に思わずニヤリ。もし、相田みつをさんがこんな額を書いたら、どんな感じになったんでしょう、見てみたい気がしました。

2010-12-22

微積分III演習(第3回)

今日も、数列の極限の問題を中心に解きました。数列の発散のε-N 法による定義や、数学でよく使う s.t (such that) 節などの説明も加えました。

講義は2クラスに分かれていて、1つのクラスでは関数の極限をすでに習い、もう1クラスではまだ習っていなくて、関数の連続性と一緒にやる予定とのことですが、関数の極限は計算練習も必要な部分ですので、ちょっと講義を先取りする形ですが、演習問題を配りました。

実際に解いてもらのは来年になりますが、新しい年も頑張りたいと思います。

2010-12-21

計算機演習(第3回)

今日は、Mathematicaを使っての授業の第2回ということで、学生さん達の方も、端末やMathematicaやMoodleの操作にも少しずつ慣れてきたのではないかと思います。

今日が前回授業のレポートの締切日でもありますが、ほとんどの人が授業時間内に提出を済ませているようでした。

次回の授業は来年になります。次回は線形代数の話題に入りますが、学生さん達の活動に期待したいと思います。

2010-12-20

数理科学II(第19回)

今日は、前回途中で終わった、部分終結式PRS算法の残りの部分について説明し、多項式剰余列の話が一通り終わりました。その後、数式処理システムMathematicaを用いて多項式剰余列を計算のデモンストレーションを行いました。

本来であれば、この後で「縮小PRSと部分終結式PRSを計算して、係数膨張の縮小を確かめる」という課題を出したいところですが、拡張Euclid互除法のアルゴリズムの解説、というか、1学期のレポート課題の答え合わせが残っていまして、これをやってからの方がよいだろう、と思います。アルゴリズムを書き下す部分をなぜ残しておいたかというと、この次のテーマとして、数式処理(多項式演算)の実装の話を考えており、そこではプログラミング言語も使って具体的な話をしますから、アルゴリズムについても、そこでちゃんと話をしよう、と思っているわけです。

そんなわけで、今年は、昨年と比べて、いろいろ事情はありましたが、2か月遅れで同じ話を終えました。2回は出張による代講、1回は集中講義、1回は別の授業の打ち合わせ、1回はアルゴリズムの基本を昨年よりも丁寧に話した部分、ということで、5回分で2か月遅れ!? と思ったのですが、期末試験の日程や秋休みなどを考慮すると、このくらいの遅れはやむを得ないようです。

昨年の講義回数からすると、あと6〜7回ですので、それまでに次の内容をうまくまとめられるようにしたいですね。次の講義は、1月18日(火)(月曜日の振替授業)ですので、約1か月先です。・・・これだけ時間があるなら、ちゃんと次の講義ノートが作れるはずですよね。頑張りましょう。今年もお疲れさまでした。来年もよろしくお願いします。

2010-12-17

数学特別演習(第10回)

今日は、前回のペアリングの話を受けて、ごみ収集車の問題を解くための「中国の郵便配達員問題のアルゴリズム」をやりました。

今回、アルゴリズムの各処理は文章で書かれており、それぞれに異なるアルゴリズムを適用した計算が含まれています。個々のアルゴリズムについては、前に出てきたものだったり、難しいものだったりするため、具体的な計算は省略されており、したがって、アルゴリズムを読んだだけでは、その動作を理解するのが難しいと思いますが、今日の授業では、今まで取り扱っているごみ収集車の問題を例に挙げて、アルゴリズムの動作を解説してくれましたので、わかりやすかったのではないかと思います。

その後、中国の郵便配達員問題の別の応用例として、プロッタによる図の動画手順というのがありましたが、さすがに今の学生さん達は、プロッタの実物を見た人はいませんでした。そうでしょうね、私も見たと思いますが、記憶があやしいですし・・・

今日は、さらに、有向グラフに対する解法に進みましたが、ここは途中で時間となりました。事前に予習した時に感じていましたが、今日の範囲はなかなかページ数の割に内容が濃かったようです。次回は、今日の続きで、有向グラフに対する解法(の途中)から始まります。

2010-12-16

数学特別演習:第9回の感想から

数学特別演習の授業では、毎回、学生さんに感想を書いてもらっていますが、今日は、その中からいくつか、印象に残ったものを紹介したいと思います。(なお、ここでは著者は匿名にし、文面は内容に合わせて一部改変している箇所があります。また、引用文中の太字は私によるものです。)

次数が奇数のノードに対して「操業橋渡し運行」を使ったり、なるべく計算回数が少なくてすむように、O(n!) ではなく O(nk) の計算量を目指す、など、今回の授業は数学的な工夫、テクニックに関する内容が多く、楽しみながら授業を聴くことができた。
現実の世界で数学の力が活かされるのは、高度な理論はもちろんですが、今回のような「ちょっとした工夫」もたくさん活かされていますし、これらも高度な理論に劣らず重要だと思います。そして、こうした「ちょっとした工夫」ができることを見抜くためには、数学をきちんと勉強して理解し、数学的な問題解決法を身につけてこそ可能になると思います。

今日の授業で良いことを知った。何か作業をする前に、その作業がどの程度大変なのかをしっかり確認しておくことが大切だということだ。これは確かにこれまでも無意識のうちにやっていたことだが、数式にすると大変かどうかがよりはっきりする。また、今回の内容は割と具体的だったので面白かった。
今回の授業の中で「計算を始める前に、計算量解析を行い、あらかじめ効率がよりよい手段を選ぼう」という趣旨の話をしました。まず、事前に仕事量を見積もるという点、そして、数式で具体的に仕事量を比較するという点をつかんでくれたのは、よかったのではないかと思います。

関係ないことだが、レナ(この本の主人公の女子高生)の水泳のタイムは、高校生にしては速いと思う。(本文では、100m自由形で1分3秒5だが、本人の自己ベストはもっと速いと言っている)
なるほど、こういう着眼もありましたか。本書では、レナは友達とスイミングスクールに通っていて、400mメドレーリレーを友達と4人で組む時に、誰がどの種目を泳げばベストタイムになるか?という、組み合わせの問題の一種を考える場面があるのですが、水泳のタイムに着目するのは、おもしろいと思います。この本はもともとドイツで(ドイツ語で)出版された本ですが、水泳のタイムに関して、本国ではどんな反応があったのか、興味深いところです。

以上のような感じで、読み進めています。

2010-12-15

微積分III演習(第2回)

今日の授業では、主に数列の極限についてやりました。先週のレポートを返して提出し、ついで今週のレポートを回収し、それから学生さん達に問題を解いてもらいました。

今日は私もだいぶしゃべったので、先週配ったすべての演習問題を解ききれませんでした。続きは来週です。

2010-12-13

計算機演習(第2回)

今日は、サテライト端末を使っての初めての授業ということで、早めに端末室に来て準備をしました。

出席を取って資料を配り、まず Mathematica の起動、ついで Moodle (e-ラーニングシステム)へのログインとコース登録を行いました。Moodle の仕様についても、特に大きなトラブルはなかったかと思います。

その後、レポートの作り方と提出方法について説明しました。レポートは、Mathematica ノートブックで作られた、レポート用ファイルをダウンロードし、記入していきます。セルを操作して、説明文が入っているセルのスタイルを Text にするよう指導しました。

ところが、ある学生さんから「セルのスタイルを Text にしても、スタイルがうまく変わらない」という質問があり、学生さんのノートブックファイルをいろいろ操作してみたところ、私が思いもよらないことが起きていました。

学生さんが書こうとした説明文の内容は(文例は変えてありますが)

この結果は 1 + 1 = 2 を示す。
といった内容です。ところが、いろいろ調べてみると、上記の文章の「この結果は」の部分が Mathematica の識別子(変数)と認識されており、「を示す。」の部分も識別子となっているようです。

私はこれを見て、最初何が起こっているか理解できませんでしたが、よく考えてみると、もし、上記の内容を書いたセルのスタイルを Text に変える前に式の評価を行ったとすれば、上の内容には代入記号 "=" がありますから、これによって代入の式と見なされ、その結果、「この結果は」や「を示す。」という名前の変数ができたのだろう、と推測しました。

そこで、まず、「この結果は」と「を示す。」という名前の定義を消し、次に、新しいセルを1つ作り、上記の内容をコピー、ペーストした上で、スタイルを Text に変えて、ようやく説明文が出来上がりました。

学生さん達の操作を見ていると、操作に慣れた私達には思いもよらないことが起きることがしばしばありますが、数学を学ぶ上でいろいろな例題を考えるのと同様、今年もこれから学生さん達といろいろな経験をするであろうことを楽しみにしています。

数理科学II(第18回)

ようやく、今日から実質的な3学期の授業です。今日は「部分終結式PRS算法」についての説明を始めましたが、前回、2学期最後の授業を休んだ人もいたので、縮小PRS算法の結果と問題点を復習した後、部分終結式PRS算法の説明に入りました。

前段の復習が結構長くなったので、今日の本題は半分程進んだでしょうか。残りの半分は来週です。次回は、今回の続きを行い、その後、数式処理を用いて多項式剰余列の計算を実演したりして、今年の授業を終える予定です。

2010-12-10

数学特別演習(第9回)

今日からこの授業も3学期です。今日は、まず、前回の「オイラーの定理」を受けて、オイラーの業績の紹介がありました。複素関数論で現われる公式「ei π+1=0」は、オイラーが発見した公式ですが、これは小説「博士の愛した数式」でもモチーフになっていました。それから、ドイツに伝わる一筆書き遊び「サンタクロースの家」というのも紹介されていました。期せずしてちょうどよいタイミングの話題になったと思います。

その次に、ごみ収集車が街中のごみを収集して回る最短経路の問題を考えることになりました。収集車のランニングコストを抑えるためには、収集車の総走行距離をなるべく抑える必要があります。そのためには、なるべく一筆書きに近い形で街中を通り抜けたいわけですが、街路には行き止まりなどもあり、なかなかそううまくはいきません。そこで、この問題をなるべくよい形で解くために「操業橋渡し運行」というのを導入し、操業橋渡し運行が最短になる組み合わせを求める問題として「ペアリング問題」を解くという話になりました。

「ペアリング問題」は、組み合わせの問題の一種なので、これを素朴に解こうとすると、時間計算量が O(n!) になり、組み合わせの爆発が起きるわけですが、これを O(n3) の計算時間で解くアルゴリズムがあるという事実が紹介されました。

次回は、これらを組み合わせて、ごみ収集車の問題を解くということで、ダイクストラのアルゴリズム、プリムのアルゴリズムに続いて、久々に具体的な形のアルゴリズムが授業に登場する予定です。私も予習をしつつ、学生さんの発表を見守りたいと思います。

2010-12-08

微積分III演習(第1回)

今日から、3学期の微積分III演習の授業です。

今回、私が担当するクラスは、化学類、地球学類向けのクラスです。3学期の微積分は、イプシロン-デルタ (ε-δ) 論法が中心となるので、履修者は1・2学期の微積分に比べて減ります。人数は年によってまちまちのようですが、今年は10人強の人達が集まりました。本来であれば先週、12月早々の授業開始のはずでしたが、先週は出張のため、今日の授業開始です。

今日は早速、これまでの復習を兼ねたレポートを提出してもらい、ついでに宿題も出しました。これから授業がどんな展開になるか、楽しみにしたいと思います。

2010-12-07

計算機演習(第1回)

今日から、3学期の「計算機演習」の授業です。数式処理システム Mathematica の実習を行います。

今日はガイダンスで、授業日程、単位の取り方(成績評価基準)、準備事項などを話しました。ガイダンスの進行に、昨年はOpenOffice.org の Impress(Microsoft PowerPoint に相当するもの)を使いましたが、そういえば Mathematica はプレゼンテーションにも使えるんだと思い、今年のガイダンスの試行スライドは Mathematica で作りました。

その他、今年は若干授業の内容や段取りを変えています。いつも、授業期間内に入る出張が重ならず、授業回数が過去数年間より1回増えたことと、レポートの評価をする際のTAの負担を減らすことを目的として、カリキュラムを一部入れ替えました。それから、授業で使う e-learning システムが、これまでの WebCT から Moodle に切り替わり、その移行作業が大詰めです。

とりあえずは、来週の授業開始に間に合うよう、準備を進めたいと思います。

数理科学II(第17回)

今日から3学期の授業が始まったわけですが、5分経っても誰も来ません。今週は他の仕事が迫っているので、休講にして引き揚げようとしたところ・・・学生さんが1人やって来ました。

そこで、1人でしたから、まずは手伝ってもらっている学類の授業のTA(ティーチング・アシスタント)の相談を始めたところ、しばらくして2人目、3人目がやってきました。

今日来た学生さん達には、同じ授業のTAをお願いしていたので、業務内容や今後の準備などについて説明してたら、授業時間はほぼ終わってしまいました。というわけで、この授業の続きはまた来週です。

2010-11-15

数理科学II(第16回)

今日は、2学期最後の授業ということで、部分終結式の基本定理を受けて、Collins による「Reduced(縮小)PRS 算法」を説明しました。

2学期の授業で、結局、部分終結式の理論が終わりませんでしたが、3学期の始めに、残った「部分終結式PRS算法」を説明し、その後、次の話題に移りたいと思います。

2010-11-12

数学特別演習(第8回)

今日の授業では、「ケーニヒスベルクの橋渡り問題」から入り、グラフの辺と頂点の個数に関する性質に続き、グラフの「一筆書き」に関連する「オイラーの定理」をやりました。

今日最初の定理の証明の部分では、テキストに数学的帰納法に関する説明がありました。数学的帰納法は、このクラスの学生さん達のほとんどは高校の数学で習ってきているようでしたので、今日の授業では特に問題ありませんでしたが、テキストではかなり丁寧に説明しており、帰納法に初めて触れる読者に対しても十分配慮している様子がうかがえました。

余談ですが、以前、私がある論文を投稿した時、証明の冒頭に "By mathematical induction. (数学的帰納法で証明する)" と書いていたら、査読者の一人に "What is an induction that is not mathematical? (数学的でない帰納法はどんなんかいな?)" と、辛らつとも思えるコメントを書かれたことがあり、以来、帰納法による証明を書く際には "By the induction. (帰納法で証明する: 「数学的」という言葉を省いた)" と書くようにしています(という話もしました)。

グラフの辺と頂点の個数に関する定理も、オイラーの定理も、証明は、式を計算したりするたぐいのものではなく、論理的に考えるだけで理解可能なもので、学生さんの感想を読むと、その点に感心している人もいました。それにしても、橋渡り問題を数学的にとらえて「グラフ」という抽象的な概念を創り出し、問題を解いたオイラーはやはりすごい人だなということを、再度実感しました。

2学期の授業は今日でおしまいです。残念ながら、全員に発表が回る程の回数がありませんでしたが、発表が回ってこなかった人達には、今学期の復習をレポートで出してもらう予定です。学生さんの感想に「授業の回数を重ねるにしたがって、発表の内容や方法のレベルが上がってきた」という指摘がかなりありました。こういう点で、お互い刺激しあえるのはこの授業の収穫だったのではないかと思います。3学期も、この調子での活発な授業になることを期待しています。

2010-11-09

「計算機代数システム Risa/Asir への招待 (II)」

今日も、昨日に引き続き、小原さんの講演が行われました。

当初、グレブナー基底の話を予定しましたが、昨夜の帰り道で、急きょ話す内容を変えたとのことで、分散計算システム OpenXM のお話をしていただきました。

OpenXM は(主に数学的計算を行う)異なるソフトウェア間で、数学の情報(数式等のデータ)をやりとりしながら非同期的に計算を行うための規約(プロトコル)およびその実装です。神戸大を本拠とする Risa/Asir の開発チームを中心として、プロトコルと実装が開発されています。これまでに、数式処理システム Risa/Asir を中心に, 計算代数システム Kan/sm1, グラフ描画ソフトウェア gnuplot, 多変数連立代数方程式の数値計算ソルバ PHCpack 等を接続する実装が公開されています。

今回のお話では、まず OpenXM を用いた分散計算(有限体上の1変数多項式の因数分解)のデモンストレーションから始まり、OpenXM の計算モデル、クライアントやサーバの構成、通信手順の概要、実装例として、数式処理システム Mathematica との接続などについて説明がありました。

私は、学生時代、数式処理システム GAL を用いた研究に関わり、オリジナルのシステムを作ることの大変さや重要性を間近で見る機会に恵まれましたが、今回のお話を聞いて、OpenXM も、独自に計算モデルやプロトコルを考え、実装してきたことのすごさを感じました。

プロトコルや計算モデルを考えるというのは、実際にどのようなシステムが求められているか、ユーザ(本当の利用者や、利用者が使うシステムを作る開発者)の要件に見合うことが求められ、その上実用性も求められますし、1度作り始めると途中の軌道修正はなかなか困難な場合もありますから、最初の設計が大変重要です。

そういう意味では、設計者には、自分がこれから作ろうとするシステムの行き先を(ある程度は)見通す力が求められます。この点で、OpenXM と、このプロジェクトを続けている方々はやはりすごいなと感じました。

もう一つ、印象に残ったのは、プロジェクトの進み方の自由度の高さです。コミッターと呼ばれる、ソースコードを改変する権限をもつ人達は、基本的に自由にソースコードを加えたり、編集したりできるそうで、新しい機能を加えるために、既存のコードを書き換えたり、新しいコードを加えたりということも、比較的自由に行われているとのことです。

こういう話を聞くと「コードの品質保証は大丈夫?誰が面倒見てるの?」という疑問がすぐにわきます。小原さんに尋ねたところ、答えはこういう内容でした(以下の記述の文責は私にあります)。

「バグを出さない」という意味での品質保証は、基本的にない。ただし「数学的に正しい計算を行う」コードを書くというのが、全体の基本。

バグの制御は特に体系的に行っていない状況で、大きなトラブルが起きていないということは、コミッターの仕事の質の高さを推測できると思います。一方「数学的に正しい計算を行う」部分については、数式処理システムによっては、特定の問題に対して誤った計算結果を返したりする場合があり、これもバグの一種ではありますが、数学的な正しさは、システムに対する信頼性に与える影響も大きいと思います。そういう意味においてこの辺の取り組み方も、なるほどと印象に残りました。

そのような感じで、今日の小原さんのお話にも大いに刺激を受けた後、夕方の研究打ち合わせを経て、夜は、田島先生、小原さんとで、楽しい会話とビールとドイツ料理を堪能し、有意義なひとときを過ごしたのでありました。

2010-11-08

数理科学II(第15回)「計算機代数システム Risa/Asir への招待 (I)」

今日の授業は、私が所属する計算機数学グループの田島慎一先生との共同研究で一緒に仕事をしている、金沢大学の小原功任先生に、数式処理システム Risa/Asir の話をしてもらいました。

小原さんは、計算代数の研究のかたわら、数式処理システム Risa/Asir の開発にも参加され、計算代数の各種アルゴリズムの実装や, 分散計算のためのシステム開発等に携わっていらっしゃいます。今日は、主に初心者向けに、数式処理や、数式処理システムの概要、Risa/Asirの紹介などをしていただきました。

主にこの授業に参加する学生さん達の都合で、講演は、今日、授業時間の1コマ話してもらい、明日、もう1コマ使って話の続きをしてもらう予定です。

今日お話しいただいた内容で、今後、授業の学生さんに補足した方がよさそうだと思った項目は、CVS(バージョン管理システム)、倍精度浮動小数、量限子消去 (Quantifier Elimination)、あたりでした。あと、今日の話題で興味深かったのは、Asir の構造体において、要素間の演算を定義できるという部分でした。ドキュメントにはあるそうですが、なかなか話題に上ることが少ないそうです。あと、構造体の演算定義では、型キャストの機能がないので少々不便、という話もされていました。以上、内輪話も含めてこの辺で。

2010-11-05

大学機関別認証評価の面談

今回、普段とはちょっと変わったミッションに臨んできました。「大学機関別認証評価」と呼ばれるものです。

日本の国・公・私立大学(短大を含む)、高等専門学校(高専)は、学校教育法で、7年以内(現実には7年)ごとに、大学(高専)としての教育、研究の機能(ミッション)を果たしているかどうか、第三者の評価を受けることが義務づけられています。ここでいう「第三者」は、文部科学大臣が認証する評価機関(認証評価機関)です。

現在、大学に対する第三者評価はいろいろありますが、機関別認証評価は、それらの評価の中でも重要なものの一つのようです。国立大学に対する機関別認証評価は、国立大学が法人化された2006年度から始まり、うちの大学は、7年目、つまり、評価周期の最終年に評価を受けることになりました。

機関別認証評価では、評価の前年度から準備が始まります。国立大学の場合、評価機関は、たいてい「独立行政法人 大学評価・学位授与機構」に依頼するようですが、評価機関に評価の依頼を行い、いろいろ準備します。評価自体は、大学による「自己評価」をもとに、評価機関で選ばれた評価委員が中心になり、その自己評価の妥当性を調査、検討して、最終的な評価や提言を行います。ですので、大学では、自己評価の作業と、その結果を「自己評価書」にまとめる作業が、前年度から、本年度始めにかけて行われます。私も、昨年来、会議のたびに「認証評価の書類が何たら・・・」という話を時々聞きましたが、このような話だったのでした。

さて、前置きが長くなりましたが、私がかかわったのは、評価委員の訪問調査時に、一般の教職員と行う「面談」です。今回、うちの大学では、昨日から今日にかけて、2日間の日程で、評価委員の先生方が大学を訪れる「訪問調査」が実施されました。訪問調査では、大学幹部との面談、一般教職員の代表との面談、施設や授業の見学、学生代表との面談などが行われました。一般教職員との面談では、全学から、教職員合わせて12人が選ばれ、その中に私も選ばれて、面談に参加しました。

面談に先立ち、大学が作成した「自己評価書」をざっと眺めました。全部でA4版約260ページにも及ぶ本冊と、同じくらいの厚さの資料の2本立てで、認証評価にあたっての評価項目も非常に細かく、教育、研究をあまねくカバーするのですが、それらの項目の一つ一つに対し、大学としてとのような取り組みを行っており、いかに評価の基準を満たしているかということを、大学の規約や、各学科、専攻の活動例など、細かな証拠も挙げながら、詳細に説明しています。全学のたくさんの人達が、自己評価書の作成にかかわったと思いますが、そのマンパワーは相当な量でしょう。何人時(月?)くらいかしらと思いました。すべての大学がこのような資料を作るわけですから、全国でも相当な仕事量になるでしょう。

肝心の面談は、分刻みのスケジュールの中で、1時間ということでした。面談の進行は、大体、参加した教職員の自己紹介を交えながら、評価委員の先生方の質問が入るのですが、うちの大学の組織が複雑なこともあり、所属組織の説明にかなりの時間が割かれていました。その他、主な話題は、教員の方では、教養教育や専門教育の分担や、学生相談の体制、事務職員や技術職員の方では、事務の分掌や学生、教員の支援体制など、主に教育・事務組織がどのように動いているかに関する議論が多かったと思います。

そんな感じで、全員の自己紹介が一巡する頃にはほぼ時間切れとなり、1時間は短いなーと感じましたし、短時間の訪問調査で状況を把握する上で、評価委員の先生方のご苦労も並々ではないなーと感じました。あと、学内の他分野の部局の組織や体制を知る機会は、私のような立場では普段なかなかないのですが、分野によって、組織の運営もいろいろなんだなーということも、よくわかりました。

今後は、評価機関から評価案が示され、それに対する大学の回答を経て、今年度末には評価結果が確定し、自己評価書も、大学から公表されると思いますので、評価の推移を見守りたいと思います。

数学特別演習(第7回)

今日の授業では、greedy algorithm(欲張りアルゴリズム)とマトロイドの関係から始まりました。

マトロイドは、主に、数学の中でも組み合わせ論と呼ばれる分野において、線形代数の「1次独立」の概念をより抽象化した、「独立」の概念や構造のことをいいます。もちろん、この授業ではマトロイドの詳細には立ち入りませんが、今勉強しているグラフの木構造が、マトロイドの一例であること、ある与えられた構造において、greedy algorithm が常に最適な解を見つけるならば、その構造はマトロイドどなること、などの事実に触れました。

マトロイドは、1930年代に、幾何学者のホイットニー (H. Whitney) によって発見され、世界に広まった概念ですが、実は、同時期に、日本でも独立に発見されたことがわかってきました。東京文理科大学(筑波大学の前身の一つ)の中澤武雄氏が、東京文理科大学の紀要 (Science Reports of the Tokyo Bunrika Daigaku, Section A) に掲載した論文がそれです。この辺の概要は、筑波大学数学系のwebサイトにおいて、斎藤明先生による解説が掲載されています。

中澤武雄の数学的業績 (斎藤 明)
http://www.math.tsukuba.ac.jp/kouseki/knak/nakasawa.html
また、西村泰一先生と黒田享先生により、中澤氏の略歴と業績、マトロイドに関する論文(ドイツ語)およびその英訳が書籍にまとめられ、出版されています。
A Lost Mathematician, Takeo Nakasawa: The Forgotten Father of Matroid Theory
Nishimura, Hirokazu; Kuroda, Susumu (Eds.)
Birkhäuser, Basel, 2009, XII, 234 p. 14 illus., Hardcover
ISBN: 978-3-7643-8572-9
なお、この本のプレプリント(全文)は、つくばリポジトリ(筑波大学の機関リポジトリ)にて入手可能です。 http://hdl.handle.net/2241/104009

授業の後半では「ケーニヒスベルクの橋渡り問題」が取り上げられました。今後は、グラフの一筆書きの問題に話題を変えて話が進みそうです。

2010-11-01

数理科学II(第14回)

今日から11月です。今日の授業では「部分終結式の基本定理」の証明がようやく終わりました。

授業が始まった時、学生さんは1人しか来ていなかったので、今日がメインの日なんだけどどうなるだろう、と思いました。結局、間もなくもう1人来ましたが、出席率は半分でした...

来週は、私が参加させていただいている共同研究のパートナーの先生が研究打ち合わせに来るので、それに合わせて、セミナー兼集中講義のような形で、話をしてもらう予定です。

2010-10-29

数学特別演習(第6回)

今日の授業では、最小全域木 (MST) を構成するプリム (Prim) のアルゴリズムが正しく動くことの証明から行いました。背理法を用いた証明で、理解に若干難しいところもあったかもしれませんが、発表者の人も頑張って説明できたと思います。

授業の後半では、プリムのアルゴリズムのようなものが、一般に greedy algorithm (「欲張り」アルゴリズム)と呼ばれる話や、MST を構成する別の greedy algorithm の例として、クルスカルのアルゴリズムを見ました。

次回は、greedy algorithm が、なぜ、正しく MST を構成できるのか、その辺の舞台裏を探っていくと思います。次回の発表者にも期待したいと思います。

2010-10-27

Maple Techno Forum 2010

Maple Techno Forumは、数式処理システム Maple の日本販売元で、昨年から開発元の Maplesoft の親会社になったサイバネットシステムが、数式処理システム(特に自社製品の Maple や MapleSim)を、モデリングやシミュレーションの中で、こんな風に使えますよ〜/使ってみませんか〜、という、事例紹介や、先端研究の成果を紹介などを行うセミナーです。

私も、Maple ユーザの一人として、アルゴリズムの研究開発の立場にいますが、実際に、ものづくりの現場で数式処理システムをどのように使おうとしているのか、どのような使い道があるのか、見てみようということで、行ってきました。

例年、このセミナーは水曜日に開かれていますが、水曜日というと、数学類の「演習デー」で、毎年授業と日程がぶつかるのですが、今年度の1・2学期は、たまたま水曜日の演習から外れているので、久し振りに足を運ぶことにしました。

今回の自分は、前回(3年前)行ったときと比べて、だいぶ自分の中での目的意識がはっきりしていて、前回よりずっといろいろな印象も強く残り、全体的に、ためになった会議でした。以下、講演の内容、講演のテーマ、講演のスタイル(プレゼンテーション)、参加者を見渡してという観点から、感想を書きたいと思います。

講演内容で、一番興味を持ったのは、(MapleSim による) 自動車のシミュレーション技術が、想像よりもはるかに進んでいたことでした。Waterloo の Maple と自動車業界との接点がどこにあるんだろうと、これまで話を聞くたび常々不思議でしたが、Waterloo は、北米の五大湖周辺の、自動車産業が活発な地域(USA だとデトロイトなどの周辺)に位置することがわかり、納得しました。それから、トヨタ自動車やGMとの共同研究で、ハイブリッド電気自動車 (HEV) の動作を MapleSim でモデルを作って動かすなど、普段あまり聞く機会のない情報に接することができたのは収穫でした。

講演のテーマですが、成功例でも失敗例でもよいのですが「新しい話」は、印象に残りました。自分の実践に基づく話だと、より印象に残った気がします。大学の授業と異なり、個人的には、教科書的な話よりは「自分でこれをやってみました」とか「今、こういうことをしています」という話の方が、より興味を持てました。普段、自分は、研究会などで、専門家を相手にした話をする機会が多いですが、専門家以外の人に向けた話を考える上で、参考になりました。

次に、プレゼンテーションを見ていて感じたことは「箇条書きは寝ます」。いや、寝たわけではありませんが、箇条書きは読むのに疲れる、内容を頭に入れるのにも疲れる、で、スライドは文章よりも図や写真を見せて、しゃべりで説明するのが、聴く立場としては聴きやすいと思いました。

このようなプレゼン技法には BBP (Beyond Bullet Points) というのがあり、私も本を買ったりしてスライドを作るときにいろいろ考えています。実は、明日某所で話すスライドがあったのですが、どうしても時間がないのに負けて、箇条書きでスライドを作りました。しかし、今日のプレゼンを見て、やはり箇条書きは使わないに越したことはないなーという思いを新たにしました。残念ながら、明日のプレゼンはもう直す時間がありませんが、今後心したいと思います。

一般の聴講者を見ていて思ったことですが、聴講者で、講演者の人達に話しかけたり話し合ったりしている人が、少ない印象を持ちました。私も、最初その気にはならなかったのですが、自動車のシミュレーションの話をしたカナダの先生の講演の後で、その先生にいろいろ話しかけている人を見て「せっかくチャンスがあるんだから、自分も話していかなきゃもったいないな!」と思い直し、後でその先生と話す機会を得ました。

まずは通り一遍の挨拶だけでもいいですし、とにかく「さっきの先生の講演は興味深かったです」とか何とか挨拶すれば、もしかしたら話に花が咲くかもしれませんし、いい機会になると思うのですが、参加された技術者(の方が多かったと思いますが)の皆さん、いかがでしょう。私も、最初は挨拶程度ですが、自分の仕事を紹介したり、講演中にちょっと気になったことを質問したりと、個人的にはためになる会話ができたと思います。あと、この日のために、名刺を、今回は日/英両面で作ったのですが、英語の名刺を作っておいたのもラッキーでした。

こんなところですが、講演者や聴講者に、同分野で知り合いの方もおり、久々にお会いして近況を伝え合ったりもできました。ありがとうございました。学生時代の研究室の盟友であり、現在カナダに渡って活躍中の山口 (Tetsu) さんも、MapleSim の最新バージョンの紹介をバッチリやってました。Good job, Tetsu san! Maple の動向には今後も注目したいと思います。

2010-10-25

数理科学II(第13回)

今日の授業では、前回の授業で残った補題 1の証明に引き続き、補題 2の証明まで終わりました。

次回は、ようやくですが「部分終結式の基本定理」の証明を行う予定です。

2010-10-22

数学特別演習(第5回)

今日の授業では、まず「前処理」(第12章:仕事の前に一仕事)で、最短経路探索の前に、探索対象をある程度絞ったり、探索に直接関係ないノードを減らしたりして、探索にかかる計算量を減らす工夫についてやりました。

ついで、「最小全域木 (Minimum Spanning Tree: MST)」の話(第13章:木々の合間で鬼ごっこ)をやりました。与えられたグラフに対する「最短経路木」は、開始ノードを変えるとMSTでもあり「得る」という部分と、本の例題として扱っている最短経路木はMSTに等しくない証明が、ちょっと複雑だったかもしれませんが、テキストに沿って順を追って考えていくと、それ程難しいことではないと思うので、よく復習してほしいと思います。

ちなみに、第13章の冒頭、「チューリングテスト」に合格したプログラムに賞金を出すという、ローブナー賞 (Loebner prize) というのが紹介されており、調べてみたところ、毎年コンテストが行われていて、今年のコンテストはなんと明日行われるのだそうです。どういう結果になるのでしょうか。

来週の授業では、今日登場したMSTを計算するアルゴリズムをやると思います。次の担当の人にも頑張ってほしいと思います。

2010-10-18

数理科学II(第12回)

今日の授業では、前回予告した「補題 1」の証明を行いましたが、最後のケースの証明が授業時間に収まりませんでした。これを次回に持ち越し、次回は引き続き補題2の証明を進めたいと思います。

2010-10-15

数学特別演習(第4回)

今日の授業では、ダイクストラのアルゴリズムの計算量の見積りを中心にやりました。一般のn個のノードを考えた場合というのは、なかなかピンとこないようですが、数個の具体例を考えて計算すると、納得できたという人が多いようでした。

あとは、グラフの辺の重みがノード間の距離に対応するような場合は、直観的な距離の探索が役に立つ・・・というのは、すでに始点と終点を結ぶ経路を1つ知っていた場合、最短経路は、始点と終点を焦点とし、すでに知っている経路の距離を長軸にもつ楕円の内部に存在する、という話も出ましたが、この話は、多くの人達にとって新鮮だったようです。

次回は、前処理の話と、グラフの「最小全域木(スパニングツリー)」の話になると思います。私も予習を頑張りたいと思います。

2010-10-07

「最近の円周率計算」

私の所属する数学専攻の月例談話会。今月は、このタイトルで、昨年、円周率計算で2兆5769億8037万桁の記録を出された、高橋大介先生(筑波大学 システム情報工学研究科/計算科学研究センター)がお話をされました。

数学系月例談話会
2010年10月7日(木)16:00〜17:00
会場:自然系学系棟D棟, 5階 D509
高橋 大介 氏 (筑波大学大学院システム情報工学研究科・計算科学研究センター) 「最近の円周率計算」
アブストラクト:
現在,円周率πの値は小数点以下5兆桁まで明らかになっている.これはコンピュータの性能の向上だけによるものではなく,円周率πを効率良く計算する公式の発見, 5兆桁もの数の加減乗除を効率良く計算する方法の確立,そして複数のグループによる計算競争という複数の要因が順次オーバーラップして効果を発揮してきた結果といえる.この講演ではこれまでの円周率計算の歴史について触れた後に,円周率πという数は具体的にはどのように計算されるのか,円周率πを計算することにどのような意味があるのか,などについて述べる.
筑波大学数学系月例談話会ホームページより引用)

高橋先生は、ハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) の専門家として、これまでにも何度か、円周率の新記録にかかわっていらっしゃる方で、以前行われた、筑波大学計算科学研究センターのHPCセミナーも聴講したことがあるので、今回、学科内でお話をされるとのことで、早速駆けつけました。

これを読んでいる方はご存知の方もいらっしゃると思いますが、昨年、高橋さんが、筑波大のスーパーコンピュータで新記録を出した後で、昨年から今年にかけて、フランス人が記録を更新し、日本人・アメリカ人のチームが、さらに記録を更新したことが話題になりましたが、その辺のより詳しい事情(後述)も知ることができました。

今回のお話は、まず、上述の最近の進展にちょっと触れた後で、円周率の算法と計算桁数の歴史的な発展について話されました。

算法では、まず、円に内接/外接する正多角形の外周の長さを測ることから始まり、微分学の登場で、無限級数の計算に発展するわけですが、現在もよく用いられる公式の一つに、算術・幾何平均を求める、ガウス・ルジャンドルの公式(高橋さんも用いた)があります。ガウスは、数学をやる人の間ではよく知られているように、数学のほとんどいたるところの分野に業績を残している人ですが、円周率にもいたか〜、やっぱりすごいなという印象を持ちました。それから、ガウスは、自分の業績の多くを生前には発表しなかったことでも有名ですが、この公式も、1970年代になって再発見されたものであるということで、ガウスの先見性を再認識しました。

20世紀後半以降、コンピュータによる計算が始まって以降は、多倍長数の乗算をいかに効率的に行うかが、計算全体の算法面での効率化の上で本質的に鍵を握るようになります。現在では高速フーリエ変換 (FFT) が主流ですが、FFT は多くの科学技術計算で用いられるもので、円周率の計算を行う上での研究成果が、計算科学全体に貢献していることをあらためて知りました。ぜひ、おけいちゃん(先日出荷が始まった、次世代スーパーコンピュータ「」)の FFT 計算も頑張ってもらいたいところです。

それから、高橋さんが、筑波大のスーパーコンピュータ「T2K筑波」で行った計算では、主計算と検算を合わせて、約73時間の間計算を続けたとのことですが、この間、システムダウンなく、最後まで計算したとのことでした。これは、システムの耐久性といった工学的観点から見るとすごいことなのだそうです。そういえば、以前、やはり円周率の計算に携わっている専門家の方から「スーパーコンピュータの性能ギリギリまで計算をさせると、しばしば部品(素子)が壊れる→計算結果に誤りが生ずる」という話を聞いたことがあったので、これだけの計算をシステムダウンなしで行ったのはやはりすごそうです。

ちなみに、T2K筑波の規模は、648 ノード × 4 ソケット/ノード × 4 コア/ソケット=10368 コアとのことで、これだけのコア数を約73時間動かすというのは、普通のパソコン、例えば 2 コアとすると約37万時間≈約15000日≈約40年間動かすことに相当するのでしょうか。

最後に、高橋さんが記録を出して以降の新記録について触れていましたので、こちらも書きたいと思います。

まず、昨年末に 2.7 兆桁の記録を出した、フランスの Fabrice Bellard 氏ですが、彼は天才的なハッカー(コンピュータの専門家)であるのみならず、数学も非常に達者な方なのだそうです。計算に使った機器も、CPUがCore i7 2.93GHz, RAM 6GB, HDD 1.5TB x 5 = 7.5 TBで、普通の人にもそこそこ手が届く程度の機器のようですので、数学的な工夫による功績が大きいようです。

次に、今年に入って 5 兆桁の記録を出した、アメリカの Alexander J. Yee 氏と日本の近藤茂氏ですが、円周率の計算には Chudonovsky の公式を用いており、高橋さんによりますと、現時点で全桁の検算は終わっていないとのことですが、末尾数十桁は検証済みとのことで、BBP (Bailey-Borwein-Plouffe) 型公式を用いると、16進数で円周率の第d桁をいきなり求めることができるのだそうです。この辺も興味深いお話でした。

そして、講演の最後に「円周率は、文明の進歩を示す一つの尺度」という言葉がありました。高橋さん曰く、これはテレビの取材を受けた時にぱっと思いついたとのことですが、歴史的な進展と人々の貢献を振り返ると、まさに格言だと思います。非常にためになるお話でした。

なお、筑波大学数学系月例談話会は「専門を離れて幅広い数学の動向を知るための場です.非専門家を対象とした概説講演のみを取り上げます.大学院生や学群生を含む,幅広い方のご参加を歓迎します.」ということですので、興味のある方はのぞいてみて下さい。ホームページは http://www.math.tsukuba.ac.jp/~colloq/ です。

2010-10-04

数理科学II(第11回)

今日は、前回定義した「部分終結式」の例題から始まりました。先週出した例題に対して、部分終結式の計算をしてきた人がいましたので、黒板で実際に計算してもらいました。例題を作った際、私は計算ミスが重なって苦労しましたが、学生さんの計算はそれに比べるとちゃんとしたもので、感心しました。お疲れさまでした。

今日の残りの時間では、部分終結式を1つの行列式で表す表し方(本来はこちらの方がよく使われる)を説明しました。

今日はここで時間となりましたが、これから先の予定は以下の通りです。

  • 補題 1
  • 補題 2
  • 定理 1 (部分終結式の基本定理)
  • 算法 1 (reduced PRS)
  • 算法 2 (subresultant PRS)
こんな感じで、授業はあと5, 6回で、多項式剰余列の部分は一段落にしようと思います。これからの授業日程を考えると、2学期いっぱいかかるかもしれません。頑張っていきたいと思います。

まずは、来週、と思いましたが、来週は体育の日でお休みですので、再来週、補題 1から続けます。

2010-10-02

数学特別演習(第3回)

前回の授業の感想を一通り読みましたが、学生さん達の多くが書いていた感想として「アルゴリズムに入り、内容が急に難しくなった」というのがありました。一方で、数人の人達が書いていた感想として「最初にアルゴリズム全体を見た時には、とても理解できそうに見えなかったが、少しずつ内容を読んでいくと、徐々に理解できるようになった(気がした)」というのもありました。

以上の2点を踏まえて、現時点で、学生さん達には、以下のことを伝えました。

  • ある内容が理解できない時は、何度でも本のページを戻って、自分で納得できるようになるまで考えることが大切。
  • すべての内容を一度に理解するのは大変なので、少しずつ段階を追って理解を深めていくことが有効(な場合が多い)。
さらに、これらはあくまでも私の意見で、自分に最も合ったやり方は、結局、自分で見つけるしかない (と思う。これも私の意見ではありますが)と添えました。

あと、上記で「理解できるようになった(気がした)」と書きましたが、理解できた「気になる」というのも、数学を学ぶ上では大切だと思います。もちろん、ちゃんと理解する必要があるので、本当に自分が理解できたかどうか、用心する必要がありますが、その上で「わかった!」というのが、最初は「気」だけだっとしても、「わかった気になる」と「そのチェック」を繰り返すことにより、徐々に本当の理解に収束していくものと信じていますし、そのくらいの楽天性もあった方がよいかもしれません。

さて、今日の授業では、前半で、ダイクストラのアルゴリズムの残りの部分を説明してもらい、後半では、グラフの辺に負の重みがあった場合や、グラフに閉路が存在するような場合の最短経路の探索について、発表してもらいました。2人とも、テキストの内容をよく読んで、説明も工夫していたと思います。

次回は、ダイクストラのアルゴリズムの計算量解析が話題の中心になると思いますが、次回の発表も楽しみにしています。

2010-09-27

数理科学II(第10回)

夏休みと出張をはさみ、久々に授業再開です。

今日の授業では、これまでの復習も兼ねて、多項式剰余の係数を、最初に与えられた2つの多項式の係数からなる行列式で表す例題を取り上げ、その後、部分終結式の定義を行いました。

次回は部分終結式の例題から入りますが、余裕がある人(暇な人)は、例題にチャレンジするようすすめてみましたので、来週の結果を待って、部分終結式の性質へと話を進めていきたいと思います。

なお、1学期のレポートも評価しました。皆さん意欲的に取り組んでいた点は評価したいと思います。一方で、アルゴリズムのように、要件に沿って確実に計算可能な手順を吟味する部分は、経験が浅い人もいるようですので、このような作業の訓練、とまでいかなくても、経験くらいはできる機会を設けられるよう、今後検討したいと思います。

2010-09-24

数学特別演習(第2回)

今日は2回目の授業でしたが、今日の発表者の最初の人が、グラフの例題に対して、最短経路を求めるアイデアの提示を行い、引き続いて2人目の人が、ダイクストラのアルゴリズムの説明に入りました。

テキストの難度は、前回に比べるとかなり増した様子です。今回集まった学生さんは、ほとんどが数学科の1年生ですが、授業中に尋ねたところ、プログラミングの経験や、アルゴリズムの疑似コードを読んだ経験のある人は皆無で、全員0からのスタートのようで、いきなり疑似コードを読むのはかなりのチャレンジのようでした。

発表している人も大分苦労しているようでしたが、それでも頑張って最後まで発表を続けたところは評価したいと思います。授業の中でのアドバイスとして、テキストで扱うような易しい例題に対して、実際にアルゴリズムが動く様子を、1ステップずつ、正確に頭の中で再現することを呼びかけました。この辺の頭の使い方は、数学を学ぶ時とほぼ1対1に対応すると思います。

次回は、ダイクストラのアルゴリズムの中心部分を読み進めていくことになると思いますが、来週の発表者の人達にも期待したいと思います。

2010-09-17

数学特別演習(第1回)

海外出張のため、ちょっと遅れて今日から2学期の授業です。

今回、2学期と3学期、数学類1年次の「数学特別演習」の授業を担当します。これは、数学/物理/化学/地球学類(=旧「自然学類」に相当)の1年生が対象で、数学のトピックに関する本を選んで、学生が主体になって輪講する授業です。

私がこの授業を担当するのは、3年前、おととしについで今回が3度目です。今回は、次の本を選びました。

R. ブランデンベルク, P. グリッツマン 著, 石田 基広 訳
最短経路の本
シュプリンガージャパン, 2007

この本は、現在インターネットでよく使われる「ルート探索」を題材に、グラフ理論の初歩、最短経路問題、アルゴリズムと計算の基本を学んでいく内容です。主人公である高校生の女の子が、人間と会話のできる高度?なパソコンソフトと対話をしながら、このようなテーマを探検していきます。

したがって、この本の特徴の一つは、本文が会話体で書かれている点です。扱う内容は数学的にはそれ程難しくないと思いますが、会話文の中から必要な数学的概念を正しく読み取り、自分でよく考えて理解するための思考が必要になります。その上で、輪講となると、自分が理解した内容を、友達になるべくわかりやすい形で説明することも必要になります。

で、今日から輪講が始まりました。初回はどんな授業になるか、見守っていましたが、今日発表した学生さん達(2人)は、いずれも、本の内容をよく読んだ上で、自分の言葉で説明ができていたようで、発表の内容、態度ともに十分だったと思います。他の学生さん達のいい刺激にもなったようですし、これから先が楽しみです。

今日の内容としては、グラフの定義、ノード数が増えた場合の経路の個数の組み合わせ爆発の話や、それを防ぎつつ最短経路を探索する実際的な方法の手がかりまで話が進みました。次回辺りからアルゴリズムっぽい話が出てくると思います。

2010-07-20

研究会

先々週になりますが、私が世話人を務めまして、研究会が開催されました。

RIMS共同研究「数式処理研究の新たな発展」
日時:2010年7月7日 13:30 〜7月9日 12:30(3日間)
場所:京都大学数理解析研究所 111号室(京都市左京区北白川追分町)
webサイト:http://sites.google.com/site/dcar2010/

内容は、文字通り、数式処理の研究会ですが、毎年秋から冬に行われるRIMSの研究集会とは別に、若手中心で、いろんなアイデアを話し合おうということで企画されたものです(詳細は上記のwebサイトにあります)。

講演の方は、招待講演2件、一般講演13件で、参加人数は20人程度といった感じでしたが、応用分野から講演していただいた方もいらっしゃいましたし、各講演後の質疑応答も活発に行われ、大変有意義な研究会になったと思います。この研究会の採択にあたり、ご尽力下さいました先生方、事前の準備にご協力下さった方々、当日の講演者、参加者の方々に感謝申し上げます。 なお、この研究会での講演内容は、RIMSから講究録にまとめて出す予定ですので、そちらもお楽しみに。

さて、今回の研究会というか、出張の個人的な話になりますが、今回は、普段の出張にも増して「飲み」の時間が多く(もちろん、セッションは全部出てますよ!)、特に、1日目と2日目は

勉強時間よりも飲みの時間の方が長い

という(衝撃の)事実に気付くことになりました。なお、3日目は、午前中研究会をやって、すぐ帰ったわけですから、実質、研究会の間毎日そうだったということですね。繰り返しますが、研究会は全日程ちゃんと出て、(立場上)居眠りなどもありませんでした。

で、それぞれどんな感じだったかというと(移動時間等もなんとなく含みます)

  • 1日目:セッション 13:30〜16:30(約3時間)、1次会 18:00〜21:00(約3時間)、2次会 21:00〜23:00(2時間)、その後お茶をしようとしたが、23:00以降開いている喫茶店が見つからず、解散
  • 2日目:セッション 9:30〜16:30(実質約5時間)、懇親会 17:00〜20:00(3時間)、2次会 21:00〜23:00(2時間)、お茶 23:00〜24:00(1時間)
という感じでした。まぁ、それだけ充実していたということでしょうが・・・

我々の飲み会の場合、最後はコーヒーで締めくくるのが定番ですが、少なくとも四条河原町の表通りを探した限りでは、23:00以降に空いている喫茶店を見つけることができませんでした。2日目はサイゼリアでお茶にしたわけですが・・・。もし、四条河原町界隈で、23:00以降に空いている喫茶店をご存知の方がいらっしゃいましたら、お知らせいただければ幸いです。

最後はしょうもないお願いになってしまいましたが^^;)、新たな飲み仲間もでき、昔の研究室仲間との交流も暖め、こちらも大変充実していたと思います。さ、また机に戻ってがんばりましょう。

2010-06-21

数理科学II(第9回)

今日は、多項式の擬剰余の係数を、もとの多項式の係数を要素とする行列式で表すことを通して、多項式の剰余の係数と、係数を並べた行列の行消去の関連について、例題を通して見てみました。

1学期の授業は今日で終わりで、昨年に比べると、若干(2回分程度?)進度が遅れているようです。アルゴリズムの話で1回分遅れたとして、もう1回分が腑に落ちないわけですが、とにかく、2学期、先に進みましょう。

2学期は、もう少し複雑な例題を扱い、多項式剰余列の係数を、最初に与えられた多項式の係数を要素とする行列式で表すことから、部分終結式の定義につなげていきたいと思います。夏休み明けに、受講者の皆さんとまた元気で会えますよう。あと、レポートの締切が来週ですのでお忘れなく。

2010-06-18

数学特別講義I(第10回)

この授業も、今日が最終回となりました。今日の授業は、数学類長の磯崎洋先生による「大学数学の勘どころ・・・歩きながら考える」でした。

今回は、先生のご専門の話よりもむしろ、大学で数学を学ぶ学生がしばしば直面する「壁」に対し、どのような心構えで数学を学ぶのがよいか、というお話や、特に数学類のこれからのカリキュラムや、卒業後の進路を考える上でのアドバイスなどがありました。

先生のお話の内容を逐一書き出すと、学生さんがレポートを作る上での格好の資料になりそうですので(笑)、私が印象に残った内容をいくつか記します(文責は私にあります)。

将来、こういう機会があると思うが(就職活動など)、自分が大学で何を学んだかを(もしくは「数学は何の役に立つか」を)説明するのは案外楽ではないことに気付くだろう。普段から、このような問いに答えられるように考えることが大切。
数学を研究することは楽ではない。しかし、ゆっくり味わおうと考えたら、数学ほど面白いものはない。
数学は「考えるということの基本的訓練」:数学を学ぶことによって、ゼロから出発しても、緻密に、かつ自由に考えられる力を身につけることが大切。また、そういう力を持った人を社会は求めている。
等身大の数学:自分の身の丈に合った数学(知識)を使いこなすことが大切。必要なことは自分で工夫して編み出す。そのために必要なのが、線形代数と微積分。

そして「卒業後のためのキーフレーズ」として

  • 数学と一生つきあう!(例えば、今は歯が立たないけど、一生かけて読もうという数学書を探す、等)
  • 数学的、論理的思考で問題解決!
  • 数学を楽しむ!
「そのためにも、大学でしっかり数学を学ぼう!」というお話で締めくくられました。

大学の数学科を出ても、仕事として数学を続けたり、仕事の中で数学を続けたりする人はそれ程多くはないわけですが、そうでなくても、そこから先の長い人生を、文化である数学とつき合い続けることで、人生もっと豊かになるよ、というお誘いは、これから大学で数学を学んでいく人達にはまたとない貴重なアドバイスだな〜と思いました。(ちなみに、私自身はこういうことをどこで知ったかというと、大学2年くらいで落ちこぼれた後で、数学好きの友達とよく話すようになって影響を受けました。)

さて、今日で一連の講義は終わりましたが、どの回も、各先生達の、個性と熱意にあふれるお話ばかりで、自分としても非常にためになる機会だったと思います。今回、ご協力下さった先生方に心から感謝するとともに、この授業が、学生さん達が今後、数学を学ぶ上での有意義な指針となることを祈ります。ティーチング・アシスタント (TA) の皆さんも、サポートありがとうございました。

おっと、授業は終わりましたが、成績をつけなきゃないですね。自分もこれから成績つけますが、成績集計の最後まで気を抜かずにやりましょう。

2010-06-14

数理科学II(第8回)

先週の授業でも触れた、惑星探査機「はやぶさ」、無事帰ってきましたね(正確には、試料が入っていると期待されるカプセルが)。今日の授業でも最初に取り上げて「地球から小惑星『イトカワ』までの距離は?」など、探査計画の内容を学生さん達と復習もしました。

このプロジェクトが成功した要因などについては、すでに多くの人達がいろいろな指摘をしていますので、受け売りなんですが、それらの中で私が重要と思った点をまとめて話しました。

  • プロジェクトを成功に導くには、最初に明確な目標を定めることが重要。今回は、まず「小惑星に行って、帰ってくる」という目標があり、そういった具体的な目標を定めることにより、満たすべき要件がより明確になるだろう。
  • 今回は「はやぶさ」が地球まで戻ってきて、それだけでもプロジェクトとしては大成功だったと思うし、それで多くの人達の注目を浴びたことは間違いないと思うが、仮に「はやぶさ」が地球まで戻ってこられなかったとしても、その時点までの成果があれば、プロジェクトは無駄だったわけではなく、そこまでの成果を認めるとともに、失敗の要因を追求し、さらなる進展を目指すべきだと思う。
  • 現在は宇宙開発も予算が限られており、どのようなプロジェクトを選んで進めるかには、いろいろな議論があると思う(例えば、有人宇宙探査計画の是非など)。予算が限られている以上、お金の使い方を選ばなければならないと思うが、それぞれの分野での基礎研究と人的資源はできる限り絶やさずに研究を続けるのが望ましい。
  • 日本には、これだけの宇宙探査を可能にする技術やお金、ガッツがある。世界のどの国にもありふれたものではないはず。だから、こういう強みを絶やさないように、維持、発展させてほしい。
・・・といった話で盛り上がって、さて、授業ですね。

今日は、部分終結式の理論への動機として、擬除算で多項式剰余列を計算する際に発生する「係数膨張」の実例を見るところから始めました。すぐに思いつく対策として 1) 有理数係数でPRSを計算する、や 2) PRSを計算するたびに、各係数のgcdで割って係数を小さくする、などが思い浮かびますが、1) では分母や分子の係数膨張が起こること、 2) では係数同士の(整数の)gcdを多数計算する手間がかかること、といった問題が起きます。そこで、PRSの係数をよく見ると、わざわざgcdを計算しなくても、係数の共通因子がわかる、というのが、部分終結式の理論です。

その後、部分終結式の手前として、終結式や判別式の定義を説明し、実際に2次多項式の判別式を計算する演習も行いました。次回は、擬剰余の係数を、割られる方/割る方の多項式の係数を要素とする行列式で表すところから、部分終結式の定義へつなげていきたいと思います。

2010-06-11

数学特別講義I(第9回)

今日の講義は、星野光男先生による「正則行列とフロベニウス代数」でした。

今回のお話では、ベクトル空間と、その双対空間が話の舞台になります。ベクトル空間は、定義上、与えられた体(ここではその体をKとします)上で定義しますが、そのベクトル空間から体Kへの線形写像全体を考えると、それらはベクトル空間をなします。これを、もとのベクトル空間に対する双対空間といいます。「与えられたベクトル空間の双対空間」の双対空間は、もとのベクトル空間になります。

さて、「フロベニウス」というのは、ベクトル空間と、その双対空間に関する性質です。詳しくは省略しますが、ベクトル空間からその双対空間へのある写像に対し、もとのベクトル空間と、写った先の双対空間が同じ構造を持つ場合のことをいう、という説明がなされました。 そして、講義の内容が前後しますが、線形代数の授業で最初の目標になる、ジョルダン標準形の存在の証明の中で、(n-1)次以下に「切り詰めた」多項式環 K[t]/(t^n) がフロベニウス代数であるという性質を用いる点を指摘されました。

今回ように抽象的な概念は、説明するのがなかなか難しいと思いますが、簡潔な例題を用いて述べられており、現時点の1年生には、ベクトル空間の双対空間の概念も初めてですので、まだ理解が難しいところもあるかと思いますが、これから線形代数の勉強を進めていく上で参考になるのではないかと思いました。

早いもので、この授業も次回が最終回ですが、楽しみにしたいと思います。

2010-06-07

数理科学II(第7回)

この授業では、たいてい、初めに、数学やITや大学事情などの旬の話題から話を始めていますが、今日は、間もなく地球に帰ってくるという小惑星探査機「はやぶさ」の話をしました。私自身は最近までそれ程情報はつかんでいませんでしたが、幾多の困難を乗り越え、宇宙探査を終えて探査機が戻って来るまでの、関係者の方々の取り組みを知るにつけ、感動を覚えずにはいられません。そろそろ次の内閣も発足するところですが、こうした科学や技術の底力が、今後も日本に続くよう、自分も今の自分の仕事に取り組みたいと思いますし、日本の政治を導く人達にも、取り組みを求めたいと思います。

さてさて、授業でした。今日は、前回から説明を始めた、計算量の記法の残りの部分を説明し、ついで、1変数多項式の加減乗除の計算量の見積りについて説明しました。それから、今学期のレポート課題も出題しました。主に、授業中、演習問題の位置づけとして残していた部分ですが、授業の内容をよく確かめる上でも、頑張って解いてきてもらいたいと思います。

2010-06-04

数学特別講義I(第8回)

今日の授業は、坂井公先生による「情報量と符号」でした。

授業では、主に数理パズルの問題を解きながら、パズルに登場する「情報量」の概念について、説明されました。最初の例題は次のようなものです。

金貨が7枚ある。見た目では分からないが、そのうち1枚は贋物(にせもの)であり、他のものよりわずかに軽い。その贋物を、天秤を2回だけ使って判別せよ。
この問題は、金貨の枚数が9枚までなら天秤を2回使って同様に判定可能ですが、金貨が10枚になると、天秤2回の使用では、贋物の判定が不可能であることが示されます。情報量は、その理論的根拠を与える手がかりになるものです。

授業では、この問題に始まって、与えられた金貨から贋金を探す問題や、与えられたボールの重さの大小を判定する問題など、何問かの問題がレポート課題になりました。問題自体を理解するのは易しいですが、いざ答えを考えるとなると、頭をひねりそうです。(私はというと、今、原稿の締切を控えているので、締切が終わってから考えましょうか・・・)

それに引き続く数理パズルの問題は、トランプのカードを観客に何枚か選んでもらい、その中からアシスタントが引いたカードを、残ったカードを見て当てる手品や、先にやった贋金判定の問題の拡張で「天秤が1回だけ嘘をつく」状況下で贋金を識別する問題が挙げられました。

特に、最後の「嘘をつく天秤」の問題は、部分的に誤って得られた情報から、正しい情報を復元する手法を考えることになります。これは、私達のくらしの中で、情報を伝達する際に誤って伝わったものを、残りの部分から訂正するという、符号理論という数学の一分野につながるものです。符号理論の趣旨は知っていましたが、このように、数理パズルとの関わりについて聞いたのは初めてでしたので、興味を持ちました。

2010-05-31

数理科学II(第6回)

今日は、先週やったGCD recursion theoremの証明にちょっと不備があったので、その補足説明を行い、引き続いて、拡張Euclidの互除法の証明の残りをやりました。拡張Euclidの互除法のアルゴリズムを書き下すのは、今学期のレポート課題に含めたいと思います。

それから、計算量について、計算量の標記の半分くらいまでやりました。残り半分は次回行いたいと思います。

今日は久々にすがすがしい陽気... と思ったのですが、授業が終わる頃には雲で薄暗くなり、雨がポツポツ... いつものこの時期は蒸し暑いくらいだと思いますが、もう少しは天気が安定してくれれば、と思います。

2010-05-28

数学特別講義I(第7回)

今回の授業は、田崎博之先生による「曲線と曲面の曲率」でした。

曲線や曲面の「曲がりぐあい」の指標の一つとなる「曲率」の概念は、数学の授業では、学部2年次の終わりの方で扱いますが、今回は、その概念を、直感的に(数式を使わずに)説明されました。

まず、円(円弧)に対し、半径の逆数を曲率と定めます。半径が小さい円ほど「カーブがきつい=曲率が大きい」という感じで、直感的に理解できます。次に、円以外の曲線に対しては、曲線上の各点で、曲線の曲がりぐあいを車のハンドルの傾けぐあいにたとえ「その点で車のハンドルを固定して走らせた場合にできる円の曲率」でもって、その点の曲率を定義する、という説明がされました。

次に、日常生活に現われる曲率の例として、道路の直線部分からカーブにさしかかる部分が取り上げられました。直線道路に直接「円弧」のカーブをつなぐと、接続部分で曲率が急激に変化し、ハンドルを切るのが追いつきません。これを防ぐため、カーブの入口では、曲率を0から徐々に大きくしていくような曲線(クロソイド曲線)をつないでいる、という説明がありました。

私は、ムスメと「プラレール」で遊ぶことがありますが、プラレールに使うカーブのレールの部品は、たいてい円弧ですので、直線のレールに円弧のレールをつないで列車を走らせるというのは、現実世界ではかなりシビアなことをやっているのか・・・という点が面白かったです。

あと、曲面の曲率の定義の仕方についても説明があり、せっけん膜との関連のお話もありました。今回のお話は、数学以外の専攻の人達にも、概念を知るだけでも興味深いものですし、これから数学(今回のような話は「微分幾何」)を学ぶ人達にとっては、その意義や背景をつかんでおく上で大変有意義だなと思いました。

2010-05-24

数理科学II(第5回)

今日の授業では、前回のGCD recursion theoremの証明の残りの部分をやり、拡張Euclidの互除法に入りました。

入りました、というのは、今日は出るところまで至らなかった、というわけで、次回は、拡張Euclidの互除法の証明の残りを行い、次の計算量の話題に入りたいと思います。

先週、暑くなったかと思ったら、今日は雨でまた肌寒い感じになりましたが、この時期の雨の日は、窓を開けると寒く、かといって窓を閉めると蒸し暑く、なかなかちょうどよい温度にするのが大変です。今日も、授業を始めてしばらく経って、上着を脱ぎました。話(の内容)が熱くなったわけではなく、話していて暑くなったんですね。講義の方は、いつも通り、落ち着いて進んでいます。

2010-05-21

数学特別講義I(第6回)

今回の授業は、木村健一郎先生による「ゼータ関数の話」でした。

「リーマン予想」は、19世紀のドイツの数学者リーマンによって提唱された予想で、現代の数学で最も重要な未解決問題の一つとされています。今回の講義では、リーマンが定義した「ゼータ関数」の紹介に引き続き、ゼータ関数の零点に関するリーマン予想が紹介されました。

リーマンのゼータ関数は、無限級数の形で表されており、もともとはある条件を満たす実数に対して定義される(無限級数が収束する)ものですが、これを、複素数全体に拡張することができます。解析接続を用いた拡張の細かい手順は、学部1年生の段階での予備知識では詳しく追うのは難しいところですが、今回の授業では、難しい部分はある程度省きつつ、理論のあらすじが比較的わかりやすい形で展開されていたと思います。

その後、ゼータ関数の零点について、自明な零点の説明があり、引き続いて、自明でない零点の実部が1/2に限られるという、リーマン予想の紹介がありました。

授業はここで時間となりました。リーマン予想の数学の中での位置づけや、数学の他のさまざまな問題のかかわり等について、もう少し聞いてみたかった気もしますが、リーマン予想がどういう問題であるかということを知る上では、非常によくまとまった授業だったと思います。

2010-05-17

数理科学II(第4回)

今回は、Euclidの互除法のアルゴリズムを出す... 前に、授業で使う「アルゴリズム」の諸概念の紹介をしました。

昨年は、何の前振りもなしにアルゴリズムを書いて説明したのですが、「アルゴリズム」を授業でformalに習ったことがない人には、ちょっと戸惑う点もあったようです。一応、この授業はself-containedにするつもりなので、アルゴリズムについても、授業で使う部分は説明をつけることにしました。

私自身、アルゴリズムについては授業で習ったことはなく、プログラムを書きながらいい加減に勉強した程度ですので、いざ、諸概念の定義を説明しようとすると「何だっけ?」と詰まることがしばしば。いくつかの本も参考にしながら題材を用意しました。

幸い(と言うべきか?)アルゴリズムを授業で初めて聴く人の割合は聴講者の半分(といっても4名中2名^^;)に上りましたし、すでに授業で習った人も、上記のように、何となく知っていてもいざ定義をきちんと説明しようとすると詰まる場合もありましたから、今回の説明は無駄にはならなかったと思います。

それからようやく、Euclidの互除法のアルゴリズムを出し、引き続くGCD recursion theoremの証明の途中で、今日の時間が終わりました。次回は、証明の残りを行い、拡張Euclidの互除法に進む予定です。

2010-05-14

数学特別講義I(第5回)

今回の授業は、筧知之先生による「CTスキャナーの原理と、その背後にある数学」でした。

CT (Computed Tomography, コンピュータ断層撮影) は、X線等を用いて、物体の内部画像を撮影する技術で、特に医療での人の体の断層撮影などは、すっかりおなじみだと思います。まず、CTを行う装置や、撮影された画像の紹介が行われましたが、現在の最先端のCTでは「断面」を越え、立体画像を撮影する技術もあり、心臓の立体画像には驚きました。

このような画像の構成のためには、まず、対象物(たとえば人体)の周囲から、ここではX線を照射します。すると、対象物をX線が通過するときに、対象物に阻まれて強さが弱まります。そこで、どの角度から照射したときに、どれだけX線が減衰したかという情報がわかります。

この情報から、対象物の密度分布(どこにどのような密度の物質があるか)を、対象物の内部の場所の関数として求めるというのが、CTの原理で、その密度分布を計算するのに用いられるのが、ラドン変換と呼ばれる理論です。ラドン変換の細部を理解するには、(複素)関数論や実解析の知識を必要とするため、1変数関数の微積分を学び始めたばかりの1年生には難しい部分もあったかと思います(先生も説明の構成にご苦労があったかと思います)が、それでも、理論の基本的な枠組みの説明は明快に描かれており、なるほど、と、感心しました。(このぐらい骨があった方が、学生の刺激になってよいのではないかと思います。)

ラドン変換にはフーリエ変換も登場するのですが、実用においては、この部分にFFT(離散フーリエ変換)が使われており、数値計算と密接にかかわる理論だということも、いままであまり知りませんでしたので、大変ためになりました。

私の授業では、くらしの中で使われている数学を扱いましたが、今回の筧先生のお話も、まさにそのようなお話で、大変興味深いものでした。

2010-05-10

数理科学II(第3回)

先週は連休のため、また1週、間が空いてしまいました。

今回の授業は、多項式の擬除算について説明しました。その後、多項式のGCD計算に入るということで、まずEuclidの互除法について、説明に入ったところで時間になりました。

次回は「アルゴリズム」に関する予備知識に関する説明を入れる予定です。

2010-05-07

数学特別講義I(第4回)

今回の授業は、大谷内奈穂先生による「統計的推定問題」でした。

アンケート調査や、テレビ番組の視聴率など、調査対象がたくさんある場合、すべての対象から調査するのは大変なことです。中には、国勢調査などのように、すべての対象に対して調査を行う場合もありますが、たいていは、調査対象の中から一部を無作為に抽出し、調査を行います。

ところが、そのようにして抽出した対象から得られる調査結果は、すべての調査対象から得られる真の調査結果からの誤差が生じます。そこで、統計的手法を用いて、たとえば「ある番組の真の視聴率は、95%の確率で8%から30%の間をとる」という結論を得ます(区間推定)。

以上が、今日の授業の主な内容(前半)でしたが、授業の冒頭「高校で統計学を習った人はどれくらいいますか?」という問いかけに対し、挙手がほとんどなかったことからも、学生には初めての内容が多かったと思いますが、丁寧に内容を説明されていたのが印象的でした。

あと、今回の授業では、実際に区間推定を行う実験もありました。授業前に、学生にアンケートを配って提出してもらいました。アンケートの内容は以下のものです。

あなたは大学のサークルに所属していますか? はい いいえ
その後、回収したアンケート(全部で76名)から無作為に20枚抽出したところ、サークル加入率が70%と出ました。それから区間推定を行うと、授業出席者のサークル加入率は「95%の確率で、50%以上90%以下」と推定されました。

一方、今回は、真の加入率もわかりますので、確認したところ、真のサークル加入率は約62%となりました。

実際に「生のデータ」を使ってその場で推定してみるというのは、インパクトもありますし、おもしろいなと思いました。私の担当回は、説明のみで終わってしまいましたが、実際に問題を解いたり計算をしたりといった作業を授業に組込むことが結構効果的だな、と、今回も感じました。

2010-04-30

数学特別講義I(第3回)

今回、第3回の授業は、増岡彰先生による「4色問題」でした。4色問題は、ご存知の方も多いと思いますが、次のような問題です(先生の講義概要より引用)。

地図上の国々を、国境を接する2国が異なる色になるように塗り分けるのに、できるだけ少ない色で済ませたい。3色では不十分なことはすぐに判るが、4色で十分か。
というものです。

4色問題については、コンピュータを使って解いたという話を聞いた程度でしたが、今回の授業では、それとは全く別に、結び目の代数的表現を用いる証明が紹介されました。

そのために、授業では、平面グラフを導入し、地図の塗り分けを、グラフの塗り分けに帰着させました。それから、あらかじめ用意したt色で、グラフの塗り分けが可能な異なる方法の個数(t点彩色数)を導入し、グラフの塗り分けの問題をt点彩色数の計算に帰着させて解く方法を紹介しました。そして、与えられたグラフから、ある方法で結び目を生成し、結び目のある代数的表現が、しかるべき性質を満たすことにより、4色に塗り分ける方法が必ず存在する、という証明の道筋が紹介されました。

結び目の話は、ちょうど、前回、石井さんの授業で扱っていたので、親しみ深いものでしたが、4色問題を解くのに結び目を使うというのは全く予想外だったので、驚きました。増岡先生の授業の進め方も丁寧で、各種の概念が段階を追って平易な形で導入されていたので、わかりやすかったと思いますし、議論の進め方も興味深いものでした。

2010-04-26

数理科学II(第2回)

うっかり確認を忘れていたのですが、先週は学生さん達の健康診断が当たっていたので、先週は休講とし、今日が2回目の授業になりました。

今回は、前回延期した、数式処理システムの紹介を行い、多項式演算に関する術語や基本的知識を説明しました。主係数, UFD, 原始的な多項式, など。

次回は、多項式の四則演算、主に除算を扱います。

2010-04-23

数学特別講義I(第2回)

今日は、数学特別講義の第2回の授業がありました。と書こうとして思い出したのですが、昨年に引き続き、今年度もこの授業を担当することになったのを書くのを忘れていました。

しかも、今年度は、授業の世話人を仰せつかった次第です。授業のまとめ役として、各週の講義を担当する先生にお願いをし、準備をしてきました。そして、1学期の授業の間、毎回、進行役を務めます。授業に関する情報は、世話人のwebページをまとめましたので興味のある方はご覧下さい。 http://www.math.tsukuba.ac.jp/~terui/topics1-2010

第1回の授業は先週で、行きがかり上、講義は自分が担当しました。内容は昨年の授業とほぼ一緒だったので、とりあえず昨年の内容を参照していただければよいでしょう。一応、今年の内容も公表する予定です(変わり映えしませんが)。それより、とりあえず、今日の授業を聴いていろいろとためになったので、印象に残ったことを書きたいと思います。

今回、第2回の授業は、石井敦先生による「結び目の数理」でした。内容は、位相幾何で研究対象となっている「結び目」や「組み紐」の性質を調べるのに、結び目の特徴を数学的な対象(群の元)に対応させ、それらに対する計算を行うという話でした。授業の中で、単に解説するだけでなく、実際に「どの結び目が等しいか?」という問題演習をしたり、行列の計算をしたり、組み紐を模した紙細工をひねったり、と、実践がいくつもあり、大変おもしろかったし、参考になりました。寝てる暇ないですね。いいことです。

石井さんは、普段は柔和な方で、同僚として気楽におつき合いさせていただいていますが、講義では凛として、学生に厳しい表情で臨んでいるのが印象的でした。学生に対するこのような接し方も、なるほどな〜と参考になりました。それにしても、授業中にDSで対戦?かどうか確認できなかったけど、とにかく、DSを出していて取り上げられた学生がいたというのは残念。筑波で授業をしていて、こういう事に出くわしたのは初めてだったので。

そして、印象に残ったのが、授業の後半、学生に対するメッセージ。

「大学で学ぶことは役に立たない」なんて言う人間になるな!

曰く(ここから先は、石井さんの言葉のによる記憶(意訳含む)ですから、内容に誤りがあったら私の責任です。)
大学で学んだ計算法や手順が、社会に出てからすぐに役に立たない。これは、ある意味、当たり前です。本当に大切なのは、大学で学んだことを使って、これまで、誰も考えたことがないようなものを生み出すことです。例えば(これから線形代数の授業で行列を習うと思いますが)Googleのweb検索技術、あそこには、行列の計算が使われているということです。これを最初に考えた人はすごいと思います。皆さんが、大学で学んだことから、これまで誰も考えたことのないような新しいアイデアを作り出すようなチャレンジをされることを期待しています。
自分も大学1年生のときにこんな授業を受けてみたかった、そんな授業でしたし、今後、自分が同様の授業をする際にも、もっといろいろ工夫してみたいと思いました。

2010-04-22

新入生歓迎会

暖かくなったと思うとまた冬に逆戻り?と思ってしまう今日この頃ですが、今日は大学院の新入生歓迎会がありました。

毎回、初々しい新入生の人達の前途を祝う気持ちになりますが、今回は、教員になって初めて、新入生に自分と同じ高校出身の人に会い、思わず感激しました。

彼は、最初見た時から、落ち着いてるな〜と目に留まりましたが、高校で応援団だったと聞き「なるほど・・・」と納得でした。母校の話題でもいろいろ盛り上がりましたが、昨夏の高校野球の県大会決勝にも駆けつけたとのこと。さすが。(ちなみにこの決勝戦は、あの花巻東にうちの母校が当たった試合で、花巻が地元の私としては、地元も気になるけど母校も気になる、という組み合わせでした。)

そんなわけで、今日はまた格別な歓迎会でありました。新入生の皆さんの活躍を祈ります。

2010-04-21

研究科の新しいパンフレット

このほど、私が所属する研究科の新しいパンフレットが出来上がり、手元に届きました。

今年のパンフレットも、昨年までと構成自体はほとんど変わりませんが、一番の変更点は、教員の顔写真が載ったことです。

こちらが昨年のパンフレットで、

こちらが今年のパンフレットです。(どちらの写真も「研究分野と教員」の節から、数学専攻の最初のページです。)

これは、研究科の「見える化」プロジェクトとか言っていましたが、正月明けに、写真屋さんが学校に来て撮影を行いました。カメラマンは若い男性の方でしたが、スマイルを引き出すのがうまく、春先に見た校正刷りでも、皆さんのにこやかな表情が印象的でした。

今回の顔写真掲載の主目的は対外的なものだと思いますが、こうしてパンフレットを見ていますと、エレベータでよく顔を見る方の名前や仕事がわかったりして、案外ためになります。同じ研究科とは言っても、自分の所属する専攻の外はほとんど別世界とも思えるくらいなので、今回の顔写真掲載は、意外と対内的にも効果があるのかも、と思いました。

今のところ、パンフレットをオンラインで入手できるかどうかはわかりませんが、とりあえず研究科のwebサイトは http://www.pas.tsukuba.ac.jp/ です。

2010-04-12

数理科学II(第1回)

今日から新年度の授業が始まりました。

今日は大学院の講義です。昨年度に引き続き「数理科学II」を担当することになりました。内容は、計算代数(数式処理)の入門です。今年度は、履修者が比較的多いと思われる概論の授業と重なるのを避けて、授業時間をずらしたのですが、集まった人は4人。そのうち1人は昨年この授業を履修してくれたM2の人なので、実質3人ということになります。昨年度よりも人数が減りましたが、授業内容の調整はやりやすいかもしれません。

今日のところは、授業で扱う内容や、前提とする知識、成績評価など、ガイダンスの部分を、昨年よりも丁寧に説明したつもりです。その後、計算代数と数値計算の比較などについて説明しました。最後に、参考書の紹介をしました。本当はその前に数式処理システムの紹介をしようと思っていたのですが、参考書の紹介と両方やると時間内に終わらないこと、参考書は実際に本を持参したので、次回も本を持参するのは重いことから、数式処理システムの紹介は次回に回しました。

なお、授業後に、学生さんと健康診断の日程を確認したところ、数理物質科学研究科は来週4月19日(月)の午後ということですので、来週のこの授業は休講にし、次回の授業は再来週4月26日になります。

最後に、研究科のwebサイトに掲載したシラバスを載せます。

数学専攻 数理科学 II(筑波大学数理物質科学研究科)
http://www.pas.tsukuba.ac.jp/syllabus/display.php?major=1&NO=22

授業概要
計算代数の基礎的理論である、多項式環上の最大公約子(GCD)、因数分解、グレブナー基底の理論と、数式‐数値融合計算の話題について講義する。

キーワード
数式処理、計算代数、最大公約子、多項式剰余列、部分終結式、因数分解、Hensel構成、グレブナー基底、数式‐数値融合計算

授業計画

  1. 基本的事項
  2. 多項式の最大公約子(GCD)
  3. 多項式の因数分解
  4. 多項式環上のグレブナー基底の理論
  5. グレブナー基底の応用
  6. 数式‐数値融合計算の話題から

2010-03-01

数理科学II(第27回)

今日の授業では、最後に残っていた、多変数多項式の一般化されたHenselの補題の証明を行いました。その後、多変数多項式の因数分解のデモンストレーション資料(Mathematicaによる計算を)配りましたが、残念ながら、準備できたのは1変数多項式のHensel構成まででした。その後、2学期のレポートの返却と解説を行いました。こちらの方は、計算例も示した資料を配りました。

この授業は、私にとって初めての経験で、最初は右も左もわからず題材の準備に追われていましたが、ようやく最近になって、計算代数の理論を展開することを通して、次のことを学生さん達に伝えることを意識するようになりました。

1つは、計算機に載せるような数学も、その理論の展開は、紙とペン、もしくは黒板とチョークから始まるということ。いささか古典的に見えるかもしれませんが、数学の伝承は、やはりこのスタイルが基本なのかもしれないなと思います。逆に言うと、このスタイルを受け入れられる人は、計算代数のような数学も、他の数学と同様に学ぼうとすれば、身につけられるものだと思います。

もう1つは、計算機が行う計算に「すごい!」と思うようなものも、決して魔法ではなく、数学のトレーニングを積んでいれば、一見「魔法」のような動作をもたらす理論も、確実に理解可能であること。計算機の能力は、人間をはるかに越える計算の速さや、記憶力など、魅力的なものばかりですが、計算機をうまく使いこなし、有効な計算結果を導き出せるか否かは、それを使う人が、その計算の背後にある理論と、計算機の能力を適切に把握しているか否かに依存すると思います。そういう意味で、計算をしようとする時は、その背後にある理論を学ぶことが大切だと思います。

以上を、授業を終えるにあたり、学生さん達に述べた上で、1年間この授業におつきあいいただいたことへの感謝の言葉を述べました。

もし、またこのような授業を担当する時には、できたら、あと1つのことを学生さん達に伝えたいと思っています。それは、このような理論を実際に計算機上でプログラムを組み、動かすことの楽しさです。となると、今年度の授業でやった理論に加えて、その実装=数式処理システムの実装の話をすることになるかな、話だけでなく、プログラムを実際に組んで、学生さん達に示す必要があるな、と思います。ここまで行けるかどうか、現時点ではまだわかりませんが、もし時間があれば、チャレンジしてみたいところですよね。そんなことを考えながら、この授業を終えました。おっと、3学期のレポートの評価と成績評価も忘れないようにしましょう。

2010-02-22

数理科学II(第26回)

今回の授業では、与えられた多項式の既約因子の係数絶対値の上界として、多くの教科書等に載っているMignotteの上界を紹介し、1変数多項式の整数環上での因数分解の手順の残りを説明しました。

多変数多項式の一般Hensel構成については、一般化されたHenselの補題のステートメントまでを説明し、その証明を、次回最終回の授業で説明することにしました。来週までみんな出てきてくれるとよいのですが、とにかくこちらも頑張りたいと思います。

計算機演習(第8回)

今日はこの授業の最終回ということで、フラクタル図形の描画を扱いました。今日の課題はさすがに苦戦する人が多そうですが、ぜひ最後まで課題を解いてくれればと思います。

授業は今日で終わりで、次回はレポート提出のための予備日となります。実は、Mathematicaのライセンス契約の都合があり、来週を締切に設定して大丈夫か?と心配しましたが、確認したところ、大丈夫ということになりました(私が手元で使うMathematicaのライセンスは次回3月1日に切れるので、ライセンスの再契約が必要ですが、授業で使っている端末室は大丈夫のようです)。

あと、余談ですが、今日、Mathematicaのライセンス期間を確認するため、前の授業時間に端末室を訪れたところ、教卓の端末の画面が端末室の全面に2つあるスクリーンの両方に映っているのを見ました。教卓は端末室の右側にあるため、私は、これまでの授業で、教卓の端末の画面を、右側のスクリーンにしか映せないと思い、実際そうしていたのですが、実は、教卓の端末の画面は、そのまま左側のスクリーンにも映せるということを、初めて知りました。残念ながら今年度の授業ではほとんど活用できませんでしたが、来年度の授業で活用したいと思います。

2010-02-17

線形代数III演習(第9回)

線形代数演習の授業も今日が最終回でしたが、前半は、前の微積分演習で終わらなかった問題を説明してもらいました。数列の上極限と下極限に関する問題ですが、これまでの演習問題の中では、さすがに骨のあるもので、細かい議論が面倒ではありますが、皆さんにもこういう問題をちゃんと考えられるようになってもらえれば・・・という思いでした。

その後の線形代数の演習問題の方は、前回に引き続き、全射や単射の性質に関する問題の発表がありました。今回の発表は少なめで、授業の区切りもちょうどよいところでついたので、若干早めに切り上げました。

3学期のこの授業を振り返ると、微積分演習と比べて、解答に手間のかかるような問題がほとんどなかったこともあり、若干時間を持て余し気味だったので、ベクトル空間の線形独立、基底や次元の概念の復習を行ったり、教科書のある定理を取り上げて、教科書(もっと広い意味では数学の本)の読み方の例のデモンストレーションをしたりしました。学生さん達にどれだけ役に立っているかはわかりませんが、必要な人に、雰囲気が少しでも伝わっていればいいなと思います。期末試験もぜひ頑張ってほしいと思います。

微積分演習(第27回)

今日は授業の最終回ということで、前回残った問題も含めて問題を解きました。が、その前回残った問題は、授業時間の最後に回したところ、この時間内に間に合わなかったので、次の線形代数演習の時間に回すことになりました。

3学期の授業は、かろうじて関数の一様連続性までたどり着きましたが、級数の方まで取り上げる時間がなかったのが心残りです。あと、1、2学期と比べて、論証が増えたせいか、発表する人も回数も減ったようです。でも、1問あたりにかける時間が増えたので、自習の時間はそれ程増えなかったと思います。学生の皆さんには、これからが数学の学習の本番と思いますが、2年生以降も頑張ってほしいと思います。

2010-02-15

数理科学II(第25回)

今日は、前回の1変数多項式のHensel構成を踏まえ、1変数多項式の整数環上での因数分解の手順を説明しました。 途中、入力多項式を有限体上の多項式に写すときに使う素数pの選択の部分でちょっと詰まってしまい、全部は終わりませんでした。

次回は、与えられた多項式の既約因子の係数絶対値の上界を見積もる方法の紹介から始めます。授業回数はあと3回ですが、最終地点である、多変数多項式の因数分解までなるべく踏み込みたいと思います。

計算機演習(第7回)

今日は、プログラミングということで、パターンマッチに基づくプログラミングを行いました。

レポート課題では、関数の微分を行うプログラムを作るということで、各種の微分のルールを定義していくわけですが、例題の微分がうまくできない学生さんの解答を見ると、必要な微分のルールが足りないというケースがほとんどだったようです。慣れないと難しいかもしれませんが、ルールをよく考えて、ちゃんと微分ができるプログラムになるよう、期待しています。

2010-02-10

線形代数III演習(第8回)

今日は、線形写像の性質、全射や単射の定義を使う問題を扱いました。基本的な問題が中心でしたが、そのような問題をきちんと解けるよう、身につけてほしいと思います。

この演習の授業も次回で終わりで、1週おいて期末試験となります。そろそろ復習が必要な人もいるかもしれませんが、頑張ってほしいと思います。

微積分演習(第26回)

今日は、前回に引き続き、数列の極限値や、上極限と下極限に関する問題を扱いました。

ここ最近の授業は、1問あたりの解答の量も増え、2段式黒板の上下にわたって答えを続けて書くケースも増えたので、昨夏に導入された2段式黒板が本領を発揮し始めたと感じます。

今日解いてもらった問題のうち、1問は、時間が足りなくて議論を次回に繰り越しました。この授業も次回が試験前の最後となりますが、演習の時間は、問題を議論する貴重な機会ですので、多少時間がかかっても、より多くの人達が理解できるように、解答をフォローしたいと思います。

2010-02-08

数理科学II(第24回)

今日は、ようやく1変数多項式のHensel構成の説明をしました。

次回は、これを踏まえた1変数多項式の整数環上の因数分解についてまとめたいと思います。

計算機演習(第6回)

今日の授業は、微積分の第2回ということで、Lagrangeの未定乗数法の計算を行いました。

でもって、レポート課題は、Lagrangeの未定乗数法を使って解く問題を「作る」というものです。問題を作る苦労を味わうことになると思いますが、頑張ってほしいと思います。

2010-02-03

線形代数III演習(第7回)

今日の授業では、板書がなかったので、前回時間切れになった「教科書を読む」デモンストレーションをやってみました。参考になっているとよいのですが。45分しゃべるだけでもしんどかったですが、講義をやることを考えるとまだまだですね。

講義の方は、線形写像もやり、基底の取り替えや、ベクトル空間の同型などの話に入ったようです。今回配布の資料には、演習問題の前に、写像の諸概念の定義を入れ、それから、線形写像の定義や、線形写像の行列表現などの説明を入れました。

この授業もあと2回なので、できれば線形写像の問題も扱いたいところです。頑張りましょう。

微積分演習(第25回)

今回も、実数の連続性に関する問題を扱いましたが、今日は、上限、下限を扱う問題を丁寧に見ていったため、2問で授業時間をほぼ使い切りました。

この授業も残りあと2回ですが、講義の方は、関数の連続性や一様連続性も扱ったということですので、次回は演習でも扱えるよう、準備したいと思います。

2010-02-01

数理科学II(第23回)

今日は、1変数多項式のHensel構成の準備ということで、素数pを法とした拡張Euclidの互除法などの道具の準備をしました。

その後、Hensel構成の導入として、いくつかの異なる素数をとり、有限体上の因数分解を行って、そこから中国剰余定理で多項式因子を構成・・・という話をしましたが、途中で時間がきてしまいました。

次回は、この話を踏まえて、Hensel構成の説明をし、1変数多項式の因数分解をなるべく終わらせられれば、と思います。

計算機演習(第5回)

今日の授業では、微分の計算に入り、今日は、関数の極限値やTaylor展開の計算などを扱いました。次回はLagrangeの未定乗数法を扱う予定です。

先週出題のレポートはなかなか手強かったと思われますが、採点の結果はどうなるでしょうか。

2010-01-27

線形代数III演習(第6回)

今日は、主に、ベクトルの線形独立性や線形従属性に関する問題を扱いました。

線形代数は、今日、この演習の時間よりも前に、講義の時間がありますが、学生さんの講義ノートを見せてもらうと、教科書のようにびっしりと書かれています。しかし、教科書のどの辺をやっているかはよくわかっていない人がいるようです。

とりあえず、板書をちゃんと写してみてはいるが、写すのが精一杯で、その中身の理解まで至っているか、疑問な人も多いようです。まず手始めに、今日の板書が教科書のどこを指すのかを探すだけでも、線形代数の中で自分の現在位置を知る手がかりになるはずですから、そのようなところから復習を始めるのも一つの手ではないかと思います。

その上で、今日は、教科書の読み方の一例として、ベクトル空間の基底を「延長」できるという定理の証明を読んでみたかったのですが、時間切れでした^^;というわけで、これはまた次回。

微積分演習(第24回)

前々回、前回と、関数の極限値に関する問題の解答が未完成だった学生さんが、3度目の挑戦で、今日はちゃんと解答を完成させることができました。よかったと思います。

その他、今日、主に扱った問題は、実数の連続性に関する問題でした。今やっている内容を実感するのはなかなか難しいかもしれませんが、頑張ってほしいと思います。

来週はもう2月で、試験までの授業回数もあと3回です。

2010-01-25

数理科学II(第22回)

今日の授業では、Berlekampの因数分解の最後ということで、f-reducing polynomialから実際に与えられた多項式の既約因子を計算する際の説明を補足し、計算例を提示しました。

次回からは、Hensel構成による整係数1変数多項式の因数分解の話題に入ります。今日はその導入をちょろっと話しましたが、授業はあと4回程で収める予定なので、なるべく話が収まるようにしたいと思います。

計算機演習(第4回)

今日の授業では、グラム・シュミットの直交化法の計算をやりました。

そして、今回のレポート課題のメインのお題は、グラム・シュミットの直交化法に基づく行列のQR分解で、例年、多くの学生が「上三角行列Rをどのように計算するか」で悩みます。禁じ手は、連立1次方程式の解法、逆行列の計算、直交行列Qの転置行列の利用、もしくはこれらと同値の行為です。

こうなると、グラム・シュミットの直交化法がRの各要素に結びつくことに気づく必要があるのですが、それが自明、もしくは自明に近い程明らかとすぐに見抜く学生は、過去の授業においてもほとんどいませんでした(数名ですが、いたことも確かです)。それでも、ほとんどの学生さん達は、最終的にはこのことを理解してレポートを出していますので、今年も頑張ってほしいと思います。

それから、先日集めた第1回レポートから、採点を始めましたが、学生さん達の感想の中に、「○○の方法がわからなかった」といったものも見られました。

授業に対する意見はなるべく今後の授業改善に役立てたいと思いますが、(周りに質問したりして)自分で解決可能な問題については、自分から動く積極性も身につけてほしいということを、授業の際に、学生に話しました。

2010-01-20

線形代数III演習(第5回)

今日の演習では、ベクトル空間の定義に基づく公式の証明や、線形結合に関する問題をやりました。

講義の方は、もうちょっと進んでいて、基底や次元、基底の延長などに入っているようですが、学生の反応は、まだ雲をつかむような雰囲気のようです。なるべく具体例などで頭の中に実体をイメージしながら学習を進められるよう、授業中も心がけていきたいと思います。

微積分演習(第23回)

今年に入ってから、微積分演習はこれが2回目ですが、講義の方は、昨日が月曜日の授業だったので、今年に入ってからはまだ先週の1回のみのようです。

そんな感じで、講義の方も、そろそろ実数の連続性に関する話をやりつつあるので、演習問題の方も、今日は、実数の連続性に関する問題をプリントにして配りました。

今日の授業では、関数の極限値に関して、教科書に載っていた定理の証明問題をやりましたが、証明はあと一歩・・・といった感じです。

発表している学生さんは頑張っているのはよくわかるのですが、いくつか浮かんだアイデアを持ちながら、それらを調べ尽くす、というところまではまだ到達していない模様です。そういった「調べ尽くす」ための時間というのは、今が貴重なチャンスだと思うので、ぜひ徹底的に取り組んでもらいたいと思います。

来週、進展が見られるよう、お互い頑張りたいものですね。

2010-01-19

数理科学II(第21回)

大学院の授業も今年は今日からです。

今日は、これまでに行ったBerlekampの算法を一通り復習した上で、行列(で定義される線形写像)の零空間の基底の計算について説明しました。その後に、Berlekampの算法の計算例をやりたかったのですが、零空間の基底の計算で時間になりました。

というわけで、計算例については来週またということになります。この授業も残すところあと5、6回ですが、なるべく行けるところまで行きましょう。

計算機演習(第3回)

今年の計算機演習の授業は今日からです。

前回のレポートは今日が締切ですが、多くの人達がすでに提出したようで、大体順調のようです。

今日と来週の2回で、線形代数のテーマを扱います。今日は、主に行列の対角化の計算です。次回はグラム・シュミットの直交化法を扱う予定です。

パソコンの操作はほぼ問題ないようで、静かに授業が進んでいますが、たまに、何だかわけのわからない操作とともに、レポートの解答が消えてしまったという人もいるようです。大変だと思いますが、将来もっと大きな失敗の予防につながるよう、ファイルをこまめに保存するとか、バックアップを取るとかいった対策を確認してほしいと思います。

2010-01-13

線形代数III演習(第4回)

今週の線形代数演習も、先週に引き続き、ベクトル空間上の線形写像の像 (image) や核 (kernel) の計算、線形独立/線形従属に関する問題を扱いました。

演習問題を解こうとして、しばしば、新しい記法を目にすると尻込みしそうになりますが、記号の定義をよく確かめた上で問題の内容をよく考えてみると、内容は大して難しくない場合もありますので、ぜひ、よく勉強して確かめてほしいと思います。

講義の方は基底等の話題に入っているようですので、演習問題の方も徐々に追いつきたいと思います。

微積分演習(第22回)

今日の演習では、先週に引き続き、関数の極限値(収束や発散などの証明)の問題をやりました。

なかなか大変なところだと思いますが、それなりに頑張っている人は頑張っているようです。解答に不備があったりして、保留になった問題もありましたが、また来週に向けて頑張ってほしいと思います。

2010-01-06

微積分演習(第21回)/線形代数III演習(第3回)

今日から新年の授業が始まりました。早速気を引き締めて・・・といきたかったのですが、急な業務で、4限の微積分演習は急遽自習、5限の線形代数演習の途中からの授業となりました。学生の皆さんには、新年早々、ご迷惑をおかけしました。

というわけで、板書もしてもらったので、線形代数演習の時間に、微積分演習の授業となりました。板書の問題はちょうど関数の極限値、ε-δ論法による証明問題で、まだ戸惑いのある人もかなりいるようです。そこで、説明をいろいろしたところ、時間切れとなってしまい、他の問題が残ってしまいました。

来週は時間をフルに取れるはずですので、まずは今日残った問題から、取り組みたいと思います。