2011-04-25

数理科学II(第2回)

今日は、数式処理に関する参考書と数式処理システムを紹介した後、多項式環と多項式演算の基本事項を説明しました。一意分解整域 (unique factorization domain, UFD)、原始的な多項式 (primitive polynomial. 体上の「原始元」とは異なります)、多項式の加減乗除、特に擬除算。

次週は曜日振替で火曜日の授業になるため、次回の授業は連休明けの5月9日になります。

2011-04-22

フレッシュマンセミナー(第2回)

今日は、まず、OPTの人達が来て、OPTのオリエンテーション活動に対するアンケートがとられました。来年度に向けた活動は、今年の秋から始まるとのことで、時期が来たら募集をしますとのことでしたが、今回の新入生の中からも、来年、OPTとして、次の後輩達を導く人が多数出てくれることを願っています。OPTの皆さん、お疲れさまでした。

次に「つくばキャリアポートフォリオ (CARIO)」 を配布しました。これは、本学が数年前から力を入れているキャリア形成支援活動の一環で配布されるもので、バインダーと何種類ものワークシートからなります。学生生活の中で、その時その時に学んだり考えたりしたことなどを記録することで、直接的には就職活動のときなど、もっと端的には、これからの人生の中で、自分の活動履歴を振り返ったりして、その先の進路を考えたり決めたりするきっかけの一つとして活用されることが一つの目的です。なお、CARIOの使い方は学生に任され、大学は、個々の授業などで活用することはありますが、学生の評価の手段として用いることはありません。

・・・という説明を、先月のFD(ファカルティ・ディベロップメント)講習のことを思い出したりしながらやってみました。個人的には、CARIO の使い方を説明するマンガがけっこうおもしろくて好きです。大学広報誌の STUDENTS の裏表紙にも、毎号、CARIO の使い方のマンガが連載されているので、つい見てしまいます。

私自身は、たまたま昨年 CARIO の存在を知り、個人的にキャリア支援室から1冊いただいたのですが、あまり使わず眠っていました。それが、今年、担任になるというので、クラス担任関連のファイルとして使い始めたところです。

今日はこんなところで終了です。次回のネタも考えないと。

数学特別講義I(第2回):正規分布、ブラウン運動、そして拡散過程

第2回の今日の授業は、梁松先生(解析分野・確率論)による「正規分布、ブラウン運動、そして拡散過程」でした。タイトルの通り、3つのテーマについて、お話がありました。

まず「正規分布」から。「コイン投げ」を例に、例えば表が出れば1、裏が出れば0という「確率変数」を定め、コイン投げを何回も続けて行うことで、表が出た頻度を数えていくと、コイン投げで表が出る確率に近づいていきます。

「正規分布」は、確率変数が従う分布の中でも代表的なものの一つで、19世紀前半に活躍した大数学者ガウスの名前をとって「ガウス分布」とも呼ばれます。ここで、先生が見せたドイツの旧10マルク紙幣には、ガウスの肖像画が描かれていますが、その脇に、標準正規分布の確率密度関数のグラフが描かれているのがポイントです。今はドイツの貨幣はユーロになったため、入手は以前より難しいと思います。(今回スライドで見せた図は、先生がお持ちの紙幣からとってきたそうです。私も、学生時代、ユーロになる前に国際会議でドイツに行く機会があり、その時入手したガウスの10マルク紙幣を保管しています。)

そして、正規分布を特徴づける性質の一つとして「中心極限定理」の説明がありました。これは、平均値と分散が存在するような確率変数の列の平均は、全体として、変数の個数がどんどん増えると、正規分布に近づく、という性質です。

たとえば、私達が机の幅を何度も繰り返して測定する場合、いろいろな要因により、測定値は毎回常に一定になるわけではありません。測り方や、定規の目盛りの読み方などにより、ちょっとずつ測定値が違ってきます。すなわち、ある確率で、微小な誤差が毎回混入することになります。しかし、中心極限定理により、微小な誤差をもつ測定をどんどん繰り返していけば、測定値の散らばり具合は正規分布に収束するので、そこから机の真の幅を推定できることになります。

次に「ブラウン運動」です。これは、もともと、1827年に、ブラウンが、水の中の花粉(の微粒子)が、不規則な運動をする現象を発見したことから名付けられましたが、その運動の原理は長らく謎で、1905年に、アインシュタインによって、ブラウン運動を説明する理論が発表されました。現在、よく用いられるブラウン運動の説明では「花粉の微粒子にぶつかる1個1個の水分子の寄与は小さいが、多数の水分子が独立に衝突することで、花粉の動きが正規分布に従うようになる」という説明がなされます。この原理に基づいてブラウン運動を記述すると、ブラウン運動が従う正規分布の分散は、運動の経過時間に対して線型の関数になることが説明されました。さらに、ブラウン運動の厳密な数学的記述と存在性の証明は、ウィーナーによって1923年、24年になされたことも紹介されました。

最後に「拡散過程」です。古典力学などの運動は、微分方程式を解くことでその動きを知ることができますが、微分方程式に、ランダム(不規則)な誤差のような動きを加えたものを考えます。特に、ランダムな動きとして、先に説明されたブラウン運動を加えた微分方程式の解として与えられる「運動」を「拡散過程」と呼びます。ブラウン運動の動きは不規則で微分できないので、普通の方法で微分方程式を解くことができません。このような問題を解く際は「確率解析」に基づく考察が必要となります。

以上、3つのことがらについて、例題なども用いてわかりやすく解説されました。私自身は、学生時代、確率論はどちらかというととっつきにくい印象を持っていたのですが、今になって話を聴いてみると、だいぶよくわかったと思います。

2011-04-18

数理科学II(第1回)

今日から、大学院の授業も始まりました。本当は先週開始だったのですが、数学類のオリエンテーション合宿に参加するため、先週は休講にしました。

今年度も「数理科学II」の授業を担当することになりました。今年で3回目です。今年度の履修者はとりあえず今日のところ4人、2人が計算機数学、2人が統計が専門で、授業の規模は昨年並みになりそうです。

今年度のテーマは「多項式の因数分解」に絞りました。昨年度は、多項式演算の実装の話などもしたのですが、数学の方は、多項式剰余列とGCDで話が終わってしまったので、今年は、因数分解の理論と実装について説明できればと思います。

今日は、第1回ということで、例年通り、授業の方針について説明しました。その中で、授業の目標として

数式処理システムにあるような因数分解の機能を自分(達)で作る!
と掲げました。できるだけ、これに近づけるような授業にしたいと思います。

あとは、数式処理の特徴を、数値計算と比較しながら説明しました。次回は、数式処理や計算代数の参考書や数式処理システムの紹介から始めたいと思います。

最後に、研究科のwebサイトに掲載したシラバスを載せます。

数学専攻 数理科学 II(筑波大学数理物質科学研究科)
http://www.pas.tsukuba.ac.jp/syllabus/display.php?major=1&NO=22

授業の到達目標
主に多項式に対する構成的な代数計算の手法を理解し、説明できるようになること。
多項式演算や、計算代数の諸算法の計算機上への実装の基礎を理解し、必要に応じて自分で実装するための学習の手がかりを身につけること。

授業概要
計算代数の基礎的理論である、多項式環上の最大公約子(GCD)、因数分解、グレブナー基底の理論と、数式‐数値融合計算の話題からトピックを選んで講義する。
計算代数の計算機上への実装を目標として、計算機の基礎、アルゴリズムの基礎、計算代数ライブラリ(プログラム)の実装の基礎的事項について解説する。

キーワード
数式処理、計算代数、最大公約子、多項式剰余列、部分終結式、因数分解、Hensel構成、グレブナー基底、数式‐数値融合計算

授業計画
計算代数の理論(下記の中からトピックを選んで講義する)

  1. 多項式の四則演算と計算量
  2. 多項式の最大公約子(GCD)と拡張ユークリッド互除法
  3. 部分終結式の理論
  4. 多項式の因数分解
  5. 多項式環上のグレブナー基底の理論
  6. グレブナー基底の応用
  7. 数式‐数値融合計算の話題から
計算代数の実装
  1. 計算機の構成
  2. プログラミング言語 Scheme
  3. 計算機上での多項式の表現
  4. 多項式の四則演算の実装
  5. 各種代数計算の実装

2011-04-15

フレッシュマンセミナー(第1回)

今日から金曜6限は、1学期が「フレッシュマンセミナー」、2学期は「クラスセミナー」、3学期は「数学類セミナー」と、1年にわたり、クラスで活動する時間帯になります。ですので、記事の回数は通し番号でつけます。

今日は初回でしたが、履修管理システム TWINS(ツインズ)の使い方講習会ということで、自然系学類の OPT が企画してくださいました。数学類は、学術情報メディアセンターで行いました。

最初に、学園祭関係の分担金の徴収、クラス担任からは、広報誌 STUDENTS や来週の入学式の要項のプリントを配布し、追って、講習会が行われました。比較的スムーズに進みましたが、それでも時間いっぱいかかって終了ということになりました。学生さん達も、特に不具合もなく手続が進んだのでほっとしました。

次回から、本格的な授業ということになりますが、内容はどうなるでしょうか。学生さん達の意向も聞いたりしながら考えたいと思います。

数学特別講義I(第1回):オイラーの数学

数学特別講義の授業ですが、初めて講義を分担した一昨年度世話人を務めた昨年度でお役御免になるかと思っていました。しかし、今年度は、数学類新入生のクラス担任として、三たび登板することになりました。

昨年度、世話人として全部の授業に出席して、各先生方の講義がなかなかおもしろかったので、今年度も、都合がつく限り、一通りこの授業に出席することにしました。そして、随時、講義内容をお伝えしたいと思います。

第1回の今日は、木村達雄先生による「オイラーの数学」でした。オイラーは、18世紀の数学者 (1707–1783) で、数学のほぼすべての分野にわたって大きな業績を遺していますが、今日4月15日がちょうど彼の304回目の誕生日ということで非常にタイムリーな講義になりました。今回は、3つの話題を用意してきたものの、時間の都合で2つの話題に絞って講義をされました。

話題の1つめは、ガンマ関数でした。ガンマ関数は、本来自然数に対して与えられた階乗の概念を、任意の(実)数に拡張したものとしても知られており、ガンマ関数にはいろいろな表現が知られています。その中から、オイラーが発見した、ガンマ関数の無限積を用いた表現を取り上げました。その証明は、なかなか文献に載っていないそうですが、木村先生ご自身による証明の導出が説明されました。こういったことをちゃんとご自分でフォローするあたりも、先生らしいなと感心しました。

もう1つの話題は、「初等整数論の基本定理」に基づく、ゼータ関数の無限乗積表示についてでした。「初等整数論の基本定理」は、すべての自然数が、素数の積に一意的に(ただ一通りに)表されるという性質ですが、オイラーは、ゼータ関数をすべての素数にわたって表される有理数の積(オイラー積)で表しました。そして、オイラー積を用いることにより、 ζ(2), すなわち 1/n^2 の無限和が π^2/6 に等しいことを証明したという業績が紹介されました。

先生は講義の中で、オイラーのすごいところは、それ程難しくない証明で、すごい事実を示している点だと指摘されました。たしかに、Σ 1/n^2 = π^2/6 を見ても、左辺は自然数しか現われないのに、右辺に円周率 π が現われるのは神秘的に思えます。その証明も、決して難しすぎるわけではなく、高校程度の微積分を学んでいれば、読んで理解できる程度だと思います。

最後に、雑誌「数理科学」の今年の9月号で、木村先生の編集による、オイラーの特集記事が掲載されるそうです。楽しみにしたいと思います。

2011-04-12

オリエンテーション合宿

4月11日(月)から12日(火)にかけて、理工学群の理学系学類(旧自然学類)の数学・物理・化学の3学類合同オリエンテーション合宿が行われました。

場所は、茨城県行方市の「茨城県立白浜少年自然の家」です。このオリエンテーションは、自然学類の頃から、私が入学した時にはすでに始まっており、以来、少なくとも20年は続いている伝統行事です(こう書くと「伝統芸能」か何かみたい)。

もう一つの特徴は、合宿の運営が、上級生の OPT (Orientation Project Team) の学生さん達が中心になって行われていることです。教員は、一応、各学類長と各クラス担任が同行しますが、ほとんど口を出すことはありません。あと、事務職員も同行しません。

オリエンテーションの主な内容は、以下の通りです。

  • クラス毎の自己紹介とクラス委員の選出
  • 大学のカリキュラム説明と履修計画
  • レクリエーション等で親睦を深める

さて、初日は朝9時過ぎに集合し、バスに乗って現地に向かいました。お昼前に着いて昼食の後、研修スタートです。

各学類とも2クラスずつありますので、午後は各学類1クラスが「カリキュラム説明」、2クラスが「自己紹介とクラス委員の選出」に分かれて進みます。教員は、各クラスで指導しているクラスリーダーが呼びに来たらその部屋に行くことになっていましたが、私は2クラスの担任で、始まってから1時間程して呼ばれて行きました。ちょうど、クラス委員を選んでいる最中でした。各委員会ごとに、担当の先輩が仕事内容を説明し、その後、委員を選出する順番で、自分達の頃に比べてなかなか説明が丁寧になったなーと感心しました。委員選出は、途中、学類長の磯崎先生と私からのスピーチをはさんで5時頃までみっちり続きましたが、無事すべての委員が立候補で決まりました。

5時になり、新入生の方は、学類、クラスごとに食事と入浴のシフトが細かく決められていましたが、教員の方は、とりあえず食べられる時に食べるということで、食事に行きました。

食べ始めてしばらく経った頃、地震がありました。かなり揺れましたが、食堂内は概して落ち着いており、ほとんどの人達が座ったまま様子を見ていました。幸い、停電や断水、家具等の転倒もなく、揺れは収まりましたが、自宅との連絡がすぐにはつきません。携帯電話のメールも、受信を試みるも失敗の連続とか、それでもこのメールはたぶん自宅からだろうと思い、自宅にメールを送信したら送れたとか、そういったやりとりがしばらく続きました。災害情報伝言板や Twitter, Facebook, mixi に無事である旨書き込んだりしましたが、夜までに何人もの方々から返信があり、ありがたい思いでした。こういう時はなるべくあちこちに安否情報を書き込んでおいた方が、周りの人達により早く安心してもらえそうです。

夕食、入浴後は、カリキュラム説明があり、新入生は食堂で先輩達のアドバイスのもと、せっせと作業しているようでしたが、教員が入る余地はなさそうで、とりあえず彼らの健闘を祈りながら、安否確認のお礼を書いたりしていました。

翌日は、朝からレクリエーション。学類対抗の「腕相撲大会」と「ドッジボール大会」で盛り上がりました。優勝は、腕相撲大会は男子が化学、女子が物理で、ドッジボール大会は混合で、化学が優勝でした。数学も健闘していましたが、人数が少ないのはちょっぴり不利だったかもしれませんね・・・

最後のプログラムは「野外炊飯」で、7〜8人の班に分かれて、カレーライスを作りました。火起こしはもうもうと煙が立ち、おまけに風が強くて大変でしたが、みんなで作ったカレーはおいしいもんですね。

こうして、午後、現地での研修が終わり、バスに乗り込んだところで、再び余震がありました。その後は、一応順調に帰ってきました。

自分が参加した時のことはほとんど忘れてしまいましたが、これまで授業などで関わりのあった学生さん達が、先輩として活躍するのを見るのは嬉しかったですし、授業では知らなかった能力を発揮していたりして、感心することもありました。今度の新入生も、ぜひ先輩を見習って、来年、再来年と、次の新入生達を導いていってほしいと思います。

2011-04-07

新入生オリエンテーション

今年度から、数学類のクラス担任を受け持つことになりました。私は数学類2011年度入学の2クラスを受け持ちます。特に今年度は、クラスでの活動について記したいと思います。

本来、今日は筑波大学でも入学式が予定されていましたが、去る3月11日に発生した東日本大震災に伴い、入学式は延期されました。しかし、入学式の後に予定されていた「新歓祭」(サークル等の勧誘を行う行事)は通常通り開かれ、引き続いて、午後には、自然系4学類と呼ばれる、旧自然学類の各専攻に対応する4学類(地球・数学・物理・化学)の合同オリエンテーションが行われました。私は、午後3時からの合同オリエンテーションに出席しました。

自然系の4学類は、地球学類が「生命環境学群」、それ以外の3学類が「理工学群」に属するので、冒頭の所属長挨拶では、理工学群副学群長(理工学群は、理学の3学類と工学の3学類から構成されるので、学群長が工学から選ばれると、副学群長は理学から選ばれるようになっています)の舛本先生(化学)と、生命環境学群長の田林先生(地球)が挨拶をされました。

次に、震災に伴って発生した、福島の原子力発電所の事故を反映して、原子力発電所の活動によって放出される放射線とその影響に関する説明が、舛本先生からありました。基本的な内容は「福島原発の放射能を理解する」というプレゼンテーションに沿ったもので、これは以前自分も大学のホームページからのリンクでざっと参照しましたが、図やグラフの内容をきちんと理解できれば、今の報道をもとに放射線の影響を判断する上で有用な資料だと思います。

引き続き、学生組織の説明が1時間程ありましたが、教員は一時退出し、オリエンテーションの資料をいただいて、一度研究室に置いてきたりしました。

その後、学類ごとの写真撮影がありました。私が入学した時は、あいにくの雨で室内での写真撮影になったことを覚えていたので、外で写真撮影に臨めたのはよかったと思います。

最後に、これも今回の震災の影響を受けてのことですが、避難訓練が行われました。学類ごとに、2人のクラス担任が、前と後ろに分かれて学生を誘導し、先日の地震の際にも避難した池の前で、点呼をとりました。

明日は、学生さん達が、英語のクラス分けのテストと図書館のオリエンテーションを受け、私達クラス担任は、週明けの月曜日からのオリエンテーション合宿に参加します。

追記(4月8日) 上記の放射線の件ですが、その後、牧野淳一郎先生の日誌記事を知り、これまでの放射線量の測定値に基づく、福島第1原子力発電所から放出された放射性物質の総量の推定や、それらに基づく各所での放射線の影響など、上記の資料程楽観視もできないらしいということを知りましたので、引き続き必要事項を勉強したいと思います。