2010-05-31

数理科学II(第6回)

今日は、先週やったGCD recursion theoremの証明にちょっと不備があったので、その補足説明を行い、引き続いて、拡張Euclidの互除法の証明の残りをやりました。拡張Euclidの互除法のアルゴリズムを書き下すのは、今学期のレポート課題に含めたいと思います。

それから、計算量について、計算量の標記の半分くらいまでやりました。残り半分は次回行いたいと思います。

今日は久々にすがすがしい陽気... と思ったのですが、授業が終わる頃には雲で薄暗くなり、雨がポツポツ... いつものこの時期は蒸し暑いくらいだと思いますが、もう少しは天気が安定してくれれば、と思います。

2010-05-28

数学特別講義I(第7回)

今回の授業は、田崎博之先生による「曲線と曲面の曲率」でした。

曲線や曲面の「曲がりぐあい」の指標の一つとなる「曲率」の概念は、数学の授業では、学部2年次の終わりの方で扱いますが、今回は、その概念を、直感的に(数式を使わずに)説明されました。

まず、円(円弧)に対し、半径の逆数を曲率と定めます。半径が小さい円ほど「カーブがきつい=曲率が大きい」という感じで、直感的に理解できます。次に、円以外の曲線に対しては、曲線上の各点で、曲線の曲がりぐあいを車のハンドルの傾けぐあいにたとえ「その点で車のハンドルを固定して走らせた場合にできる円の曲率」でもって、その点の曲率を定義する、という説明がされました。

次に、日常生活に現われる曲率の例として、道路の直線部分からカーブにさしかかる部分が取り上げられました。直線道路に直接「円弧」のカーブをつなぐと、接続部分で曲率が急激に変化し、ハンドルを切るのが追いつきません。これを防ぐため、カーブの入口では、曲率を0から徐々に大きくしていくような曲線(クロソイド曲線)をつないでいる、という説明がありました。

私は、ムスメと「プラレール」で遊ぶことがありますが、プラレールに使うカーブのレールの部品は、たいてい円弧ですので、直線のレールに円弧のレールをつないで列車を走らせるというのは、現実世界ではかなりシビアなことをやっているのか・・・という点が面白かったです。

あと、曲面の曲率の定義の仕方についても説明があり、せっけん膜との関連のお話もありました。今回のお話は、数学以外の専攻の人達にも、概念を知るだけでも興味深いものですし、これから数学(今回のような話は「微分幾何」)を学ぶ人達にとっては、その意義や背景をつかんでおく上で大変有意義だなと思いました。

2010-05-24

数理科学II(第5回)

今日の授業では、前回のGCD recursion theoremの証明の残りの部分をやり、拡張Euclidの互除法に入りました。

入りました、というのは、今日は出るところまで至らなかった、というわけで、次回は、拡張Euclidの互除法の証明の残りを行い、次の計算量の話題に入りたいと思います。

先週、暑くなったかと思ったら、今日は雨でまた肌寒い感じになりましたが、この時期の雨の日は、窓を開けると寒く、かといって窓を閉めると蒸し暑く、なかなかちょうどよい温度にするのが大変です。今日も、授業を始めてしばらく経って、上着を脱ぎました。話(の内容)が熱くなったわけではなく、話していて暑くなったんですね。講義の方は、いつも通り、落ち着いて進んでいます。

2010-05-21

数学特別講義I(第6回)

今回の授業は、木村健一郎先生による「ゼータ関数の話」でした。

「リーマン予想」は、19世紀のドイツの数学者リーマンによって提唱された予想で、現代の数学で最も重要な未解決問題の一つとされています。今回の講義では、リーマンが定義した「ゼータ関数」の紹介に引き続き、ゼータ関数の零点に関するリーマン予想が紹介されました。

リーマンのゼータ関数は、無限級数の形で表されており、もともとはある条件を満たす実数に対して定義される(無限級数が収束する)ものですが、これを、複素数全体に拡張することができます。解析接続を用いた拡張の細かい手順は、学部1年生の段階での予備知識では詳しく追うのは難しいところですが、今回の授業では、難しい部分はある程度省きつつ、理論のあらすじが比較的わかりやすい形で展開されていたと思います。

その後、ゼータ関数の零点について、自明な零点の説明があり、引き続いて、自明でない零点の実部が1/2に限られるという、リーマン予想の紹介がありました。

授業はここで時間となりました。リーマン予想の数学の中での位置づけや、数学の他のさまざまな問題のかかわり等について、もう少し聞いてみたかった気もしますが、リーマン予想がどういう問題であるかということを知る上では、非常によくまとまった授業だったと思います。

2010-05-17

数理科学II(第4回)

今回は、Euclidの互除法のアルゴリズムを出す... 前に、授業で使う「アルゴリズム」の諸概念の紹介をしました。

昨年は、何の前振りもなしにアルゴリズムを書いて説明したのですが、「アルゴリズム」を授業でformalに習ったことがない人には、ちょっと戸惑う点もあったようです。一応、この授業はself-containedにするつもりなので、アルゴリズムについても、授業で使う部分は説明をつけることにしました。

私自身、アルゴリズムについては授業で習ったことはなく、プログラムを書きながらいい加減に勉強した程度ですので、いざ、諸概念の定義を説明しようとすると「何だっけ?」と詰まることがしばしば。いくつかの本も参考にしながら題材を用意しました。

幸い(と言うべきか?)アルゴリズムを授業で初めて聴く人の割合は聴講者の半分(といっても4名中2名^^;)に上りましたし、すでに授業で習った人も、上記のように、何となく知っていてもいざ定義をきちんと説明しようとすると詰まる場合もありましたから、今回の説明は無駄にはならなかったと思います。

それからようやく、Euclidの互除法のアルゴリズムを出し、引き続くGCD recursion theoremの証明の途中で、今日の時間が終わりました。次回は、証明の残りを行い、拡張Euclidの互除法に進む予定です。

2010-05-14

数学特別講義I(第5回)

今回の授業は、筧知之先生による「CTスキャナーの原理と、その背後にある数学」でした。

CT (Computed Tomography, コンピュータ断層撮影) は、X線等を用いて、物体の内部画像を撮影する技術で、特に医療での人の体の断層撮影などは、すっかりおなじみだと思います。まず、CTを行う装置や、撮影された画像の紹介が行われましたが、現在の最先端のCTでは「断面」を越え、立体画像を撮影する技術もあり、心臓の立体画像には驚きました。

このような画像の構成のためには、まず、対象物(たとえば人体)の周囲から、ここではX線を照射します。すると、対象物をX線が通過するときに、対象物に阻まれて強さが弱まります。そこで、どの角度から照射したときに、どれだけX線が減衰したかという情報がわかります。

この情報から、対象物の密度分布(どこにどのような密度の物質があるか)を、対象物の内部の場所の関数として求めるというのが、CTの原理で、その密度分布を計算するのに用いられるのが、ラドン変換と呼ばれる理論です。ラドン変換の細部を理解するには、(複素)関数論や実解析の知識を必要とするため、1変数関数の微積分を学び始めたばかりの1年生には難しい部分もあったかと思います(先生も説明の構成にご苦労があったかと思います)が、それでも、理論の基本的な枠組みの説明は明快に描かれており、なるほど、と、感心しました。(このぐらい骨があった方が、学生の刺激になってよいのではないかと思います。)

ラドン変換にはフーリエ変換も登場するのですが、実用においては、この部分にFFT(離散フーリエ変換)が使われており、数値計算と密接にかかわる理論だということも、いままであまり知りませんでしたので、大変ためになりました。

私の授業では、くらしの中で使われている数学を扱いましたが、今回の筧先生のお話も、まさにそのようなお話で、大変興味深いものでした。

2010-05-10

数理科学II(第3回)

先週は連休のため、また1週、間が空いてしまいました。

今回の授業は、多項式の擬除算について説明しました。その後、多項式のGCD計算に入るということで、まずEuclidの互除法について、説明に入ったところで時間になりました。

次回は「アルゴリズム」に関する予備知識に関する説明を入れる予定です。

2010-05-07

数学特別講義I(第4回)

今回の授業は、大谷内奈穂先生による「統計的推定問題」でした。

アンケート調査や、テレビ番組の視聴率など、調査対象がたくさんある場合、すべての対象から調査するのは大変なことです。中には、国勢調査などのように、すべての対象に対して調査を行う場合もありますが、たいていは、調査対象の中から一部を無作為に抽出し、調査を行います。

ところが、そのようにして抽出した対象から得られる調査結果は、すべての調査対象から得られる真の調査結果からの誤差が生じます。そこで、統計的手法を用いて、たとえば「ある番組の真の視聴率は、95%の確率で8%から30%の間をとる」という結論を得ます(区間推定)。

以上が、今日の授業の主な内容(前半)でしたが、授業の冒頭「高校で統計学を習った人はどれくらいいますか?」という問いかけに対し、挙手がほとんどなかったことからも、学生には初めての内容が多かったと思いますが、丁寧に内容を説明されていたのが印象的でした。

あと、今回の授業では、実際に区間推定を行う実験もありました。授業前に、学生にアンケートを配って提出してもらいました。アンケートの内容は以下のものです。

あなたは大学のサークルに所属していますか? はい いいえ
その後、回収したアンケート(全部で76名)から無作為に20枚抽出したところ、サークル加入率が70%と出ました。それから区間推定を行うと、授業出席者のサークル加入率は「95%の確率で、50%以上90%以下」と推定されました。

一方、今回は、真の加入率もわかりますので、確認したところ、真のサークル加入率は約62%となりました。

実際に「生のデータ」を使ってその場で推定してみるというのは、インパクトもありますし、おもしろいなと思いました。私の担当回は、説明のみで終わってしまいましたが、実際に問題を解いたり計算をしたりといった作業を授業に組込むことが結構効果的だな、と、今回も感じました。