2010-06-21

数理科学II(第9回)

今日は、多項式の擬剰余の係数を、もとの多項式の係数を要素とする行列式で表すことを通して、多項式の剰余の係数と、係数を並べた行列の行消去の関連について、例題を通して見てみました。

1学期の授業は今日で終わりで、昨年に比べると、若干(2回分程度?)進度が遅れているようです。アルゴリズムの話で1回分遅れたとして、もう1回分が腑に落ちないわけですが、とにかく、2学期、先に進みましょう。

2学期は、もう少し複雑な例題を扱い、多項式剰余列の係数を、最初に与えられた多項式の係数を要素とする行列式で表すことから、部分終結式の定義につなげていきたいと思います。夏休み明けに、受講者の皆さんとまた元気で会えますよう。あと、レポートの締切が来週ですのでお忘れなく。

2010-06-18

数学特別講義I(第10回)

この授業も、今日が最終回となりました。今日の授業は、数学類長の磯崎洋先生による「大学数学の勘どころ・・・歩きながら考える」でした。

今回は、先生のご専門の話よりもむしろ、大学で数学を学ぶ学生がしばしば直面する「壁」に対し、どのような心構えで数学を学ぶのがよいか、というお話や、特に数学類のこれからのカリキュラムや、卒業後の進路を考える上でのアドバイスなどがありました。

先生のお話の内容を逐一書き出すと、学生さんがレポートを作る上での格好の資料になりそうですので(笑)、私が印象に残った内容をいくつか記します(文責は私にあります)。

将来、こういう機会があると思うが(就職活動など)、自分が大学で何を学んだかを(もしくは「数学は何の役に立つか」を)説明するのは案外楽ではないことに気付くだろう。普段から、このような問いに答えられるように考えることが大切。
数学を研究することは楽ではない。しかし、ゆっくり味わおうと考えたら、数学ほど面白いものはない。
数学は「考えるということの基本的訓練」:数学を学ぶことによって、ゼロから出発しても、緻密に、かつ自由に考えられる力を身につけることが大切。また、そういう力を持った人を社会は求めている。
等身大の数学:自分の身の丈に合った数学(知識)を使いこなすことが大切。必要なことは自分で工夫して編み出す。そのために必要なのが、線形代数と微積分。

そして「卒業後のためのキーフレーズ」として

  • 数学と一生つきあう!(例えば、今は歯が立たないけど、一生かけて読もうという数学書を探す、等)
  • 数学的、論理的思考で問題解決!
  • 数学を楽しむ!
「そのためにも、大学でしっかり数学を学ぼう!」というお話で締めくくられました。

大学の数学科を出ても、仕事として数学を続けたり、仕事の中で数学を続けたりする人はそれ程多くはないわけですが、そうでなくても、そこから先の長い人生を、文化である数学とつき合い続けることで、人生もっと豊かになるよ、というお誘いは、これから大学で数学を学んでいく人達にはまたとない貴重なアドバイスだな〜と思いました。(ちなみに、私自身はこういうことをどこで知ったかというと、大学2年くらいで落ちこぼれた後で、数学好きの友達とよく話すようになって影響を受けました。)

さて、今日で一連の講義は終わりましたが、どの回も、各先生達の、個性と熱意にあふれるお話ばかりで、自分としても非常にためになる機会だったと思います。今回、ご協力下さった先生方に心から感謝するとともに、この授業が、学生さん達が今後、数学を学ぶ上での有意義な指針となることを祈ります。ティーチング・アシスタント (TA) の皆さんも、サポートありがとうございました。

おっと、授業は終わりましたが、成績をつけなきゃないですね。自分もこれから成績つけますが、成績集計の最後まで気を抜かずにやりましょう。

2010-06-14

数理科学II(第8回)

先週の授業でも触れた、惑星探査機「はやぶさ」、無事帰ってきましたね(正確には、試料が入っていると期待されるカプセルが)。今日の授業でも最初に取り上げて「地球から小惑星『イトカワ』までの距離は?」など、探査計画の内容を学生さん達と復習もしました。

このプロジェクトが成功した要因などについては、すでに多くの人達がいろいろな指摘をしていますので、受け売りなんですが、それらの中で私が重要と思った点をまとめて話しました。

  • プロジェクトを成功に導くには、最初に明確な目標を定めることが重要。今回は、まず「小惑星に行って、帰ってくる」という目標があり、そういった具体的な目標を定めることにより、満たすべき要件がより明確になるだろう。
  • 今回は「はやぶさ」が地球まで戻ってきて、それだけでもプロジェクトとしては大成功だったと思うし、それで多くの人達の注目を浴びたことは間違いないと思うが、仮に「はやぶさ」が地球まで戻ってこられなかったとしても、その時点までの成果があれば、プロジェクトは無駄だったわけではなく、そこまでの成果を認めるとともに、失敗の要因を追求し、さらなる進展を目指すべきだと思う。
  • 現在は宇宙開発も予算が限られており、どのようなプロジェクトを選んで進めるかには、いろいろな議論があると思う(例えば、有人宇宙探査計画の是非など)。予算が限られている以上、お金の使い方を選ばなければならないと思うが、それぞれの分野での基礎研究と人的資源はできる限り絶やさずに研究を続けるのが望ましい。
  • 日本には、これだけの宇宙探査を可能にする技術やお金、ガッツがある。世界のどの国にもありふれたものではないはず。だから、こういう強みを絶やさないように、維持、発展させてほしい。
・・・といった話で盛り上がって、さて、授業ですね。

今日は、部分終結式の理論への動機として、擬除算で多項式剰余列を計算する際に発生する「係数膨張」の実例を見るところから始めました。すぐに思いつく対策として 1) 有理数係数でPRSを計算する、や 2) PRSを計算するたびに、各係数のgcdで割って係数を小さくする、などが思い浮かびますが、1) では分母や分子の係数膨張が起こること、 2) では係数同士の(整数の)gcdを多数計算する手間がかかること、といった問題が起きます。そこで、PRSの係数をよく見ると、わざわざgcdを計算しなくても、係数の共通因子がわかる、というのが、部分終結式の理論です。

その後、部分終結式の手前として、終結式や判別式の定義を説明し、実際に2次多項式の判別式を計算する演習も行いました。次回は、擬剰余の係数を、割られる方/割る方の多項式の係数を要素とする行列式で表すところから、部分終結式の定義へつなげていきたいと思います。

2010-06-11

数学特別講義I(第9回)

今日の講義は、星野光男先生による「正則行列とフロベニウス代数」でした。

今回のお話では、ベクトル空間と、その双対空間が話の舞台になります。ベクトル空間は、定義上、与えられた体(ここではその体をKとします)上で定義しますが、そのベクトル空間から体Kへの線形写像全体を考えると、それらはベクトル空間をなします。これを、もとのベクトル空間に対する双対空間といいます。「与えられたベクトル空間の双対空間」の双対空間は、もとのベクトル空間になります。

さて、「フロベニウス」というのは、ベクトル空間と、その双対空間に関する性質です。詳しくは省略しますが、ベクトル空間からその双対空間へのある写像に対し、もとのベクトル空間と、写った先の双対空間が同じ構造を持つ場合のことをいう、という説明がなされました。 そして、講義の内容が前後しますが、線形代数の授業で最初の目標になる、ジョルダン標準形の存在の証明の中で、(n-1)次以下に「切り詰めた」多項式環 K[t]/(t^n) がフロベニウス代数であるという性質を用いる点を指摘されました。

今回ように抽象的な概念は、説明するのがなかなか難しいと思いますが、簡潔な例題を用いて述べられており、現時点の1年生には、ベクトル空間の双対空間の概念も初めてですので、まだ理解が難しいところもあるかと思いますが、これから線形代数の勉強を進めていく上で参考になるのではないかと思いました。

早いもので、この授業も次回が最終回ですが、楽しみにしたいと思います。

2010-06-07

数理科学II(第7回)

この授業では、たいてい、初めに、数学やITや大学事情などの旬の話題から話を始めていますが、今日は、間もなく地球に帰ってくるという小惑星探査機「はやぶさ」の話をしました。私自身は最近までそれ程情報はつかんでいませんでしたが、幾多の困難を乗り越え、宇宙探査を終えて探査機が戻って来るまでの、関係者の方々の取り組みを知るにつけ、感動を覚えずにはいられません。そろそろ次の内閣も発足するところですが、こうした科学や技術の底力が、今後も日本に続くよう、自分も今の自分の仕事に取り組みたいと思いますし、日本の政治を導く人達にも、取り組みを求めたいと思います。

さてさて、授業でした。今日は、前回から説明を始めた、計算量の記法の残りの部分を説明し、ついで、1変数多項式の加減乗除の計算量の見積りについて説明しました。それから、今学期のレポート課題も出題しました。主に、授業中、演習問題の位置づけとして残していた部分ですが、授業の内容をよく確かめる上でも、頑張って解いてきてもらいたいと思います。

2010-06-04

数学特別講義I(第8回)

今日の授業は、坂井公先生による「情報量と符号」でした。

授業では、主に数理パズルの問題を解きながら、パズルに登場する「情報量」の概念について、説明されました。最初の例題は次のようなものです。

金貨が7枚ある。見た目では分からないが、そのうち1枚は贋物(にせもの)であり、他のものよりわずかに軽い。その贋物を、天秤を2回だけ使って判別せよ。
この問題は、金貨の枚数が9枚までなら天秤を2回使って同様に判定可能ですが、金貨が10枚になると、天秤2回の使用では、贋物の判定が不可能であることが示されます。情報量は、その理論的根拠を与える手がかりになるものです。

授業では、この問題に始まって、与えられた金貨から贋金を探す問題や、与えられたボールの重さの大小を判定する問題など、何問かの問題がレポート課題になりました。問題自体を理解するのは易しいですが、いざ答えを考えるとなると、頭をひねりそうです。(私はというと、今、原稿の締切を控えているので、締切が終わってから考えましょうか・・・)

それに引き続く数理パズルの問題は、トランプのカードを観客に何枚か選んでもらい、その中からアシスタントが引いたカードを、残ったカードを見て当てる手品や、先にやった贋金判定の問題の拡張で「天秤が1回だけ嘘をつく」状況下で贋金を識別する問題が挙げられました。

特に、最後の「嘘をつく天秤」の問題は、部分的に誤って得られた情報から、正しい情報を復元する手法を考えることになります。これは、私達のくらしの中で、情報を伝達する際に誤って伝わったものを、残りの部分から訂正するという、符号理論という数学の一分野につながるものです。符号理論の趣旨は知っていましたが、このように、数理パズルとの関わりについて聞いたのは初めてでしたので、興味を持ちました。