2013-02-23

並木 SSH 数学セミナー「あみだくじを作ろう」


今回、茨城県立並木中等教育学校のスーパーサイエンスハイスクール (SSH) 事業の一環として行われた SSH 講座「数学セミナー」にて「あみだくじを作ろう」という題目で講演をしました。

スーパーサイエンスハイスクール (SSH) 」は、文部科学省から指定を受けて、自然科学や工学などの先進的な教育の取り組みや、大学や研究機関と連携した研究、教育活動を行うもので、独立行政法人科学技術振興機構 (JST) から資金援助を得て行うものです。

並木中等教育学校は、茨城県つくば市に位置する県立初の中高一貫校で、もともとは県立並木高校でしたが、5年前に中高一貫教育を始め、来春、1期生が大学受験を迎えるとのことです。そして、SSH は今年度(昨春)から5年間のプロジェクトで指定を受けて活動をしています。SSH 講座は、これまで、宇宙物理や医学などの講演を行ってきたとのことですが、今回は初の数学の講座ということで呼んでいただきました。直接声をかけてくださった齊藤利仁先生は、学生時代、私と同じ研究室で1つ下です。

今回の講演は2件で、最初の講演が、讃岐勝さん(筑波大学 医学医療系/筑波大学附属病院総合臨床教育センター)による「さまざまな曲線の描き方と利用法について—昔の人は曲線をどのように描いたか—」で(讃岐さんも私と同じ研究室の出身で、私が助手の時に大学院生でした)、その後で私が講演しました。そして、最後に、茨城県教育庁指導主事の内桶二郎先生による「最小ネットワーク問題の実験」の実演が行われました。

讃岐さんの講演では、昔の人々が円錐曲線などのさまざまな曲線を描画するのに用いた平面幾何学の性質や、それらの理論に基づいて彼らが作った作図機器などが紹介されました。讃岐さんは、大学院を出て最初に就職した筑波大学の数学教育の部署で、作図法を中心とした数学史の研究にも携わり、「曲線の事典」という、非常に興味深い内容とすばらしい装丁の本も執筆されています。昔の人々が、いかに工夫して器械を作り、コンピュータもない時代に正確で美しい図形を描画していたかを見ると、驚かされます。

それから、戦時中の中学校の数学の教科書でも、平面幾何の性質(円周角と中心角の関係)を用いた器械の動作が取り上げられていたことも紹介されました。これは講演の後でも居合わせた生徒さん達や先生方とも議論になりましたが、たぶん、戦時中でものづくりの技術が重視されたのではないかと推測しました。講演の後では、平面幾何の課題研究をしている中学3年生の生徒さんが讃岐さんといろいろ議論をしていて、その熱心さに私も感心しました。

次の私の講演では、あみだくじと代数学の関係から「スタートとゴールが決まったあみだくじを、最小本数の橋をかけて作る作り方」の話をしました。あみだくじは、代数学の「置換群」として扱うことができ、その理論から、スタートとゴールが与えられたあみだくじを作るのに必要な橋の最小本数がわかります。今回は、この理論の部分は(時間も知識もある程度必要ですので)認めた上で、実際に条件を満たすあみだくじを作るための構成的手順に絞って解説しました。講演の後半では、生徒さん達が眠くならないよう、実際に生徒さん達にもあみだくじを描いてもらいながら作業を進めました。生徒さん達は無事に目的とするあみだくじを作ることができたようで、よかったと思います。

最後の内桶先生による「最小ネットワーク問題」は、たとえば「三角形の3点 A, B, C に位置する学校どうしをネットワークで結ぶのに、距離の合計が最小になるネットワークの結び方はどのようなものになるでしょう?」というものです。この条件をみたす点は「シュタイナー (Steiner) 点」と呼ばれ、いろいろな図形(より一般には「無向グラフ」)のシュタイナー点を求める問題は「シュタイナー問題」と呼ばれているそうです。

さて、先生のお話では、まず三角形の場合に、距離最小のネットワークがどのような形になるか、私達に予想してもらい、では実際に実験で確かめてみましょう、ということになりました。出てきたのは、2枚の透明なプラスチックの板を 10mm くらいの間隔で重ねて、3か所、ネジ止めした自作の器具で、せっけん水に浸してみると、せっけん膜が見事に距離最小のネットワークの形になったのでした。それから、四角形、五角形、六角形の実験が実演され、私達は「すごい!!!」とわくわくしっぱなしでした。

最後に、私の「あみだくじ」の話でも下敷きになった「置換群」の話題で(私の講演では、直接「置換群」という言葉は出しませんでした)、隣り合う互換によって移り合う文字列を結ぶと、美しい図形になることが紹介されました。3文字の置換群 S3(3本の縦線で作るあみだくじに対応する)では正六角形が現われ、4文字の置換群 S4(4本の縦線で作るあみだくじに対応する)では、ちょっと不思議な立体が現われることが紹介されました。

内桶先生の実演は、数学的なアイデアを視覚化するという点で、大変参考になるものでした。昨年紹介しましたが、私のところでは、学園祭の際に、子供達を対象にした科学実験の学生企画が伝統的に行われています。この中で、数学については、小学生のような生徒が、パッと見て内容がわかる、とか、すごいと思う、というような実演をするネタを作るのがなかなか大変だという印象を得ていたので、今回の内桶先生の実演は、ぜひ、数学のおもしろさを伝えたいと思っている大学生にも見てもらいたいようなものでした。

一連の講演の後で、何人かの生徒さん達が質問をしたりして居残っていて、関心の高さに感心しました。彼らの年頃だった頃の自分を振り返ると、それ程質問できるような知識は持ち合わせていなかったけど、おもしろそうだなーと思って、質問する友達のそばで話を聞いていましたが、なつかしい気持ちにもなりました。

並木中等教育学校のスーパーサイエンスハイスクール (SSH) 事業は、今年度から始まったということで、初年度の運営ですから、たぶんほとんどの行事が初めてで、担当の先生方もいろいろご苦労があったことと思います。そのような中で、先生の指導のもとに生徒が課題を設定して研究を行ったり、いろいろな分野で第一線で活躍されている先生方の話を聞いたり、研修で海外に出かけたりと、彼らの年頃だった頃の自分達のことを思い出すと、本当にうらやましくなるような体験だなーと思いました。

先生方に伺ったところ、今日のような講演では、高校生よりも中学生(中等1〜3年生)の方が出席者が多いようで、高校生の人達の参加が少ないのは残念な気もしますが、この事業を続けていく中で、今の中学生の人達が高校生になって、参加者が増えることを期待したいと思います。

というわけで、今日は非常に有意義なひとときを過ごすことができました。今回のセミナーを企画された並木中等教育学校の責任者の齊藤達也先生、お誘い下さった齊藤利仁さんに感謝いたします。

あと、今回の私の講演ネタは、もともとは私が就職したての頃に筑波大学自然学類の「線形代数演習」の授業で作ってきたものです。この過程で、筑波大学数理物質系(数学域)の森田純先生には、転倒数に関する理論の方で助言をいただきました。また、2005年には、SSH 事業で学校訪問に来た高校に対し、自然学類で数学講座を開きました。このとき、私の授業資料をもとにして、筑波大学大学院数理科学科学研究科の修士課程に在学していた山内(現・坂口)歩さんに、実際のあみだくじの作り方に関する講演をしてもらいましたが、今回は、山内さんの講演資料も参考にさせていただきました。あわせて感謝いたします。

最後になりますが、今日の私の講演で使ったスライドを載せておきます。

あみだくじをつくろう (Let's Make an Amidakuji (Ghost Leg Game)!) by Akira Terui


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