2011-04-22

数学特別講義I(第2回):正規分布、ブラウン運動、そして拡散過程

第2回の今日の授業は、梁松先生(解析分野・確率論)による「正規分布、ブラウン運動、そして拡散過程」でした。タイトルの通り、3つのテーマについて、お話がありました。

まず「正規分布」から。「コイン投げ」を例に、例えば表が出れば1、裏が出れば0という「確率変数」を定め、コイン投げを何回も続けて行うことで、表が出た頻度を数えていくと、コイン投げで表が出る確率に近づいていきます。

「正規分布」は、確率変数が従う分布の中でも代表的なものの一つで、19世紀前半に活躍した大数学者ガウスの名前をとって「ガウス分布」とも呼ばれます。ここで、先生が見せたドイツの旧10マルク紙幣には、ガウスの肖像画が描かれていますが、その脇に、標準正規分布の確率密度関数のグラフが描かれているのがポイントです。今はドイツの貨幣はユーロになったため、入手は以前より難しいと思います。(今回スライドで見せた図は、先生がお持ちの紙幣からとってきたそうです。私も、学生時代、ユーロになる前に国際会議でドイツに行く機会があり、その時入手したガウスの10マルク紙幣を保管しています。)

そして、正規分布を特徴づける性質の一つとして「中心極限定理」の説明がありました。これは、平均値と分散が存在するような確率変数の列の平均は、全体として、変数の個数がどんどん増えると、正規分布に近づく、という性質です。

たとえば、私達が机の幅を何度も繰り返して測定する場合、いろいろな要因により、測定値は毎回常に一定になるわけではありません。測り方や、定規の目盛りの読み方などにより、ちょっとずつ測定値が違ってきます。すなわち、ある確率で、微小な誤差が毎回混入することになります。しかし、中心極限定理により、微小な誤差をもつ測定をどんどん繰り返していけば、測定値の散らばり具合は正規分布に収束するので、そこから机の真の幅を推定できることになります。

次に「ブラウン運動」です。これは、もともと、1827年に、ブラウンが、水の中の花粉(の微粒子)が、不規則な運動をする現象を発見したことから名付けられましたが、その運動の原理は長らく謎で、1905年に、アインシュタインによって、ブラウン運動を説明する理論が発表されました。現在、よく用いられるブラウン運動の説明では「花粉の微粒子にぶつかる1個1個の水分子の寄与は小さいが、多数の水分子が独立に衝突することで、花粉の動きが正規分布に従うようになる」という説明がなされます。この原理に基づいてブラウン運動を記述すると、ブラウン運動が従う正規分布の分散は、運動の経過時間に対して線型の関数になることが説明されました。さらに、ブラウン運動の厳密な数学的記述と存在性の証明は、ウィーナーによって1923年、24年になされたことも紹介されました。

最後に「拡散過程」です。古典力学などの運動は、微分方程式を解くことでその動きを知ることができますが、微分方程式に、ランダム(不規則)な誤差のような動きを加えたものを考えます。特に、ランダムな動きとして、先に説明されたブラウン運動を加えた微分方程式の解として与えられる「運動」を「拡散過程」と呼びます。ブラウン運動の動きは不規則で微分できないので、普通の方法で微分方程式を解くことができません。このような問題を解く際は「確率解析」に基づく考察が必要となります。

以上、3つのことがらについて、例題なども用いてわかりやすく解説されました。私自身は、学生時代、確率論はどちらかというととっつきにくい印象を持っていたのですが、今になって話を聴いてみると、だいぶよくわかったと思います。

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